個人情報を自分で売ってみた データ管理は大丈夫?
個人情報の無断使用や横流しが問題になるケースが後を絶たない。それだけ価値があるということならば、自分で自分の情報を売ってみたらどうなるだろう。
まずは「情報銀行」を試してみる。個人がデータを銀行に預け、銀行は同意を得たうえで企業に提供するサービスだ。提供者は見返りに金銭などの便益を得る。信託銀行や旅行会社も参入を計画している。7月から1万2000人規模の実験を進める電通系のマイデータ・インテリジェンス(東京・港)を訪れた。
最初に名前や結婚状況、家族構成、年収、趣味などを入力して会員登録。スマートフォンに専用アプリをダウンロードすると「○○について教えてください」という企業側のオファー(申し出)がずらりと現れる。「毎月の支出」などの質問に答えていくだけで、1時間もせずに99ポイント(99円相当)がたまった。自らの情報を提供していくたびに対価が発生していく仕組みだ。ポイントは通販サイトの商品券などに交換できるという。
個人情報を巡っては、就活サイト会社が就活生の行動予測を本人の同意なく第三者に販売する問題も発覚した。情報銀行は大丈夫だろうか。
戸田牧子事業部長は「基本的には企業が社内でマーケティングなどに使う。第三者に転売する場合はその旨をオファーに明記させる」と話す。
肝になるのが「データの自己管理」の考え方だ。企業は利用者の同意の範囲内でしかデータを利用できず、個人は登録した情報を随時変更できる。自分で情報の出入りをある程度、コントロールできる仕組みだ。
戸田事業部長は「今後は情報提供先の企業ならではの便益も提供していきたい」と話す。工場見学や期間限定イベントの招待状、新商品サンプルが候補だ。福田勝取締役は「家計簿データから食生活改善を指南するなど個人の生活を豊かにするサービスも提供できれば」と意気込む。
個人情報を売る方法は他にもある。「データ取引市場」だ。事業者は管理者として売買の仲介に徹し、提供者自身が専用のアプリでデータ自体も管理する。本人の同意に基づいて情報がやり取りされる点は情報銀行と同じだが、データの管理は自分自身で担うことになる。
エブリセンスジャパン(東京・港)は昨年、国の助成でデータ取引市場を実験し、約700人のモニター会員が観光関連の情報をマーケティング会社とやり取りした。現在は実験を終え、個人向け市場は休眠状態なので、同社がシミュレーションした架空のオファーに基づき、記者の位置情報、生年月、性別の3つのデータの取引を試してみた。
7月30日から8月5日までの1週間。3時間ごとにデータを端末から自動送信する。1週間で480ポイント(480円相当)がたまった。
「個人情報の提供」と聞き最初は身構えたが、よくメールに送られてくるポイントサービスのアンケートと変わらず、拍子抜けした。特に抵抗もなく、むしろ「こんな情報に本当に価値があるの?」と自分の「価値」に驚いた。簡単な質問への回答や位置情報の提供で小遣いが稼げれば、活用したい人もいるだろう。
情報銀行の仕組みはデータが銀行に集中する。取引市場を利用する場合は、情報を自ら管理できる代わりに、責任や煩雑さも伴う。東大の橋田浩一教授(ネットワーク論)は「情報銀行のような集中管理型は、管理者が悪用すると大量のデータが漏洩し得る」と指摘する。記者の目には、両者に機能面の差はない印象を受けた。他人任せに抵抗があれば、自己責任の市場型がベターのようだ。
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ニーズ まだ手探り状態
個人情報を巡っては「GAFA(ガーファ)」と呼ばれる米国のIT大手4社がネットサービスなどを無料で提供する代わりに、利用者から膨大な個人情報を吸い上げ、デジタル経済を席巻している。
国は日本独自のデータエコノミーの確立を目指すが、どんなデータが価値を生むかはまだ手探り。「100~500円の幅で対価を設定し利用者の反応を探っている状態」(マイデータ・インテリジェンス)だ。「生活者」が主役のモデルを築けるかがカギを握る。
(木ノ内敏久)
[NIKKEIプラス1 2019年8月24日付]
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