エルトン・ジョンの栄光と苦悩 名曲交え映画で迫る

クイーンを描いた「ボヘミアン・ラプソディ」に続けとばかり、大物音楽家の評伝映画が相次ぐ。独自の解釈を交え、エルトン・ジョンらの魅力に迫っており、再評価の好機となりそうだ。

「普通の自伝映画だったら本人の歌声を当てる方法もあるが、これはミュージカル映画だ。主役が歌わなかったらおかしいよね」

70歳を超えてなお第一線で活躍する英国のミュージシャン、エルトン・ジョンの半生を描いた「ロケットマン」(23日公開)で本人を演じ、吹き替えなしで名曲の数々を歌いきった英国俳優タロン・エガートンはそう語る。日本でもヒットしたスパイアクション「キングスマン」で一躍名を売った29歳だ。

歌って演じきる

「10代の頃、演劇学校の試験で歌ったのが幼い頃から聴き続けてきたエルトンの『ユア・ソング』だった。そんな憧れの人を演じたなんていまだに信じられない」。監督はデクスター・フレッチャー。クイーンの世界的再評価をもたらした「ボヘミアン~」の製作を手がけた。

パーティーでエルトン・ジョンとデュエットを披露したこともあるエガートン

同作でのフレディ・マーキュリー同様、エルトンの輝かしい業績だけではなく覆い隠したくなるような過去にも触れる。「かんしゃくを起こしたり、じだんだを踏んだりと負の面も見せるので、エルトンから『俺あんなんじゃないぞ』と言われないかと緊張した」というタロン。完成した映像を一緒に見たとき、本人は声を上げて笑ってくれ、胸をなで下ろした。

歩みを忠実になぞるというより、歌や人生を独自に解釈したのが見どころ。エルトンがリハビリ施設で半生を告白する構成も巧みだ。「記憶は必ずしも正確ではないから、過去を忠実に再現しなくてもいい。ファンタジーの要素を入れる創意工夫のある現場だった」とタロン。

「エルトンをよく知らない若い人たちには、彼を発見するきっかけになるから責任重大だ。曲に思い入れや愛着のあるファンもいる。僕の演技に納得しない観客もいるにちがいない」と感じ、プレッシャーに押しつぶされそうになった。「でも(先行公開された国では)受け入れられていてうれしい。日本でも気に入ってもらえると思う」

若い世代が発見

24日には「ボサノバの神様」と呼ばれたブラジルの伝説的な歌手・ギタリストを追った音楽ドキュメンタリー「ジョアン・ジルベルトを探して」が公開される。ジョアンは7月6日に死去したばかりだ。

ジョアンの存命中に製作され、2008年のコンサート出演を最後に、公の場から姿を消していた彼の行方をフランス人のジョルジュ・ガショ監督が追う。ゆかりの人々や土地を訪ねることで、ボサノバを生み出した巨人の新たな一面が浮かび上がる。

邦画でも音楽作品は活況が続く。根強いファンやフォロワーを持つロックバンド、the pillows(ピロウズ)の結成30年を記念した「王様になれ」が9月13日に公開される。岡山天音演じるカメラマン志望の青年の恋模様をバンドの楽曲が彩る青春物語で、若い世代にもアピールしそう。

ビートルズ、プリンス、シカゴ……。有名ミュージシャンの魅力を伝える映画の企画は目白押しだ。5月、カンヌ国際映画祭での「ロケットマン」のプレミア上映後の記者会見で「飽和状態では?」と問われたフレッチャー監督は懸念を一蹴した。「歌声や音楽と、映像がバチッとはまると背筋がぞくぞくする。そんな体験をしたくて僕らは劇場に行くんだ。映画化できるならチャンスを吸い尽くすくらいのつもりで作ればいいさ」

(近藤佳宜)

[日本経済新聞夕刊2019年8月20日付]

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