映画『ダンスウィズミー』 軽やかな表現 昭和の匂い
歌、ダンス、芝居。この三位一体が呼び起こす陶酔こそミュージカルの醍醐味だろうが、話の途中でいきなり歌い、踊りだすのがイヤ、と嫌う人もいる。
子供時代の体験でミュージカル嫌いになった一流企業のOL鈴木静香(三吉彩花)は、遊園地の催眠術師・マーチン上田(宝田明)の胡散臭(うさんくさ)い術にかかって、音楽が聞こえると歌い、踊る体質になってしまった。
マーチン役の宝田明といえば舞台ミュージカルのベテラン。歌い踊るシーンは手慣れて良い味をだし、『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』など、軽快な娯楽作を作り続ける矢口史靖監督との出会いで、彼の登場シーンには昭和の和製ミュージカル映画の雰囲気が生まれている。
催眠術を解きたい静香が探偵(ムロツヨシ)を雇ってマーチン探しを開始。彼のアシスタントだった斎藤千絵(やしろ優)と共に、新潟、弘前、札幌と催眠術ショーを見せるマーチンを追いながら、ヤクザな借金取立人や謎の路上シンガーと共に行動する様子を通して、静香自身がいきなり歌って踊る体験を重ねる姿を描き出す。嫌いなはずなのに、歌い踊る静香はいつもより輝いて楽しそうだ。
ここで使われる音楽はカラオケや車の中で流れる「狙いうち」「年下の男の子」など、いわば懐メロの既成曲。歌詞はその場の状況に合っていても、ヒロインの心情を語るのが新たに書き下ろした歌詞と曲でなかったのは物足りない。
映画の結末を考えると、優等生OLの静香が歌い、踊ることで彼女自身がイキイキと輝ける世界があることも、新たな曲を使って見せて欲しかった。どんなことでも可能にできるのがミュージカルという表現形式なのではないか。
芸の力で心情を軽やかに表現。フィナーレにはその良さも出たが、昭和の匂いもあって少々古めかしい。 1時間43分。
★★★
(映画評論家 渡辺祥子)
[日本経済新聞夕刊2019年8月9日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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