おじやメインで、オヤジにやさしいカフェ 東京・原宿
開催まで1年を切った東京五輪の話題がにぎやかになってきた。東京だけでなく、地方の観光地にもインバウンド(訪日外国人)客がいっそう増えると考えられ、いまから対応に悩む飲食店オーナーも多いはずだ。訪日客対応の課題は「言葉の壁」と「多様な食文化への対応」だ。
今回はちょっとしたメニューの工夫で、多様な食文化を求めるお客の満足度を高めた事例を紹介したい。
「ビオ オジヤンカフェ」(東京・渋谷)は1999年、JR原宿駅から徒歩7分ほどのキャットストリートで"おじや"をメインにしたカフェ業態として開業した。運営するのはマン・フュージョン・システム(東京・目黒)。男性でも利用しやすいカフェを作りたいと考え、「それならおじやをウリにしてはどうか。オヤジとおじやで語呂もいい」と、関野申吉社長の発案で業態を構築した。
古材を活用したぬくもりのある内装など、いわゆるカフェブームの走りとしてオープン以来、連日盛況。平日で150人、休日ともなると300人も来客する。
看板メニューの「オジヤン(おじや)」(800円)は、有料で4つのフレーバーと約18種類のトッピングが用意されており、お客は好みに応じて自分好みのオジヤンを作れる。天然素材を使用し、やさしい味が特徴だ。
同店はここ数年で外国人客の率が高まり、なかにはベジタリアンやビーガン(完全菜食主義)なども含まれていた。食の多様性を求めるお客には、サラダなど素材がわかりやすいメニューを勧めていたが、なかには「菜食主義者でも食べられる温かい食事が欲しい」などの要望が増えてきた。
こうしたお客の要望に応えるために従来のしょうゆベースの「極みかつお出汁(だし)」だけでなく、塩味の「極み昆布出汁」の2種類の味が選べるようにして、伝わりやすいようメニューに「Vegan(ビーガン)」と英語表記を加えた。
「ビーガンメニューを取り入れたことでお客様の笑顔が増え、感謝の言葉をもらうようになった」と沖田友宏店長は話す。
一口に菜食主義といっても、求めるニーズは様々だ。しかし、日本食には動物性タンパク質や動物性油脂を排除した「精進料理」という考えがあり、豆腐、のり、味噌など、菜食主義を求めるお客に対応できる食材はそろっている。例えば昆布や野菜で味のベースを作り、肉の代用に厚揚げ、ベーコンの代用として油揚げを使うなど置き換えをすれば、多様な食の思想にも対応しやすい。
かつお出汁を昆布出汁に、しょうゆ味を塩味に変えただけで、ビーガンだけでなくアルコールを添付したしょうゆがNGなムスリムの人でも食べられるメニューを作り、成功したオジヤンカフェ。飲食業に関わっているなら20年のインバウンドラッシュに対応するために、今から対応を研究してはいかがだろう。
(フードジャーナリスト 鈴木桂水)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。"美味しい料理のその前"が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。
[日経MJ 2019年8月9日付]
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