カリスマから対話型へ 外国人指揮者が楽団員と結束

日本フィルとのウィーン楽友協会での公演で笑顔を見せるインキネン(写真前方右)=山口 敦撮影
日本フィルとのウィーン楽友協会での公演で笑顔を見せるインキネン(写真前方右)=山口 敦撮影

日本のオーケストラを指揮する外国人指揮者の気質が変わってきた。カリスマとして君臨するタイプは影をひそめ、団員と対話を重ね、対等な立場で演奏を創り上げる「ソフト派」が主流だ。

「欧州ツアーの合間には団員と食事に出かけ、英語で気さくに会話していた。とても真摯な人」。フィンランド出身の気鋭指揮者ピエタリ・インキネンをそう評するのは、日本フィルハーモニー交響楽団の平井俊邦理事長だ。日本フィルは4月、インキネンと「黄金のホール」として名高いオーストリアのウィーン楽友協会に出演した。

ともに高め合う

日本フィルが欧州を回ったのは13年ぶり。ドイツや英国、インキネンの地元フィンランドなどで全10公演をこなした。ウィーンでは、日本フィルが得意とする武満徹「弦楽のためのレクイエム」などを演奏した。

2008年に日本フィルと初共演し、16年から首席指揮者を務めるインキネンは39歳。母国の大作曲家シベリウスやベートーベンらの古典派、現代音楽までレパートリーは幅広く、若さとフットワークの良さを生かして、団員とともに演奏水準を高め合ってきた。

インキネンは「団員と同じ時間を過ごすツアーで、さらに距離が縮まった」と結束をアピールする。20年秋には世界中のオペラファンが集う独バイロイト音楽祭で「ニーベルングの指環」4部作を指揮することが決定。自らの世界的な評価もうなぎ登りだ。

平井理事長は「日本フィルのサウンドは力みなく、自然な音色に変わってきた。これは必死で日本になじもうとした彼の努力の成果でもある」と手腕を高く評価する。

英国出身のジョナサン・ノットは14年から東京交響楽団の音楽監督を務める。就任後、知的かつ情熱的な指揮で瞬く間に団員から支持を得た。「僕と東響は素晴らしい関係にある。これは世界的に有名な楽団だからいい音楽を奏でるとは限らないという証明だ」と語り、自信をのぞかせる。

音楽通じて信頼

歌劇場での経験が豊富で、上演が少ない大作やオペラも得意にする。18年はエルガーのオラトリオ「ゲロンティアスの夢」を定期演奏会で披露し、評判をとった。今年10月には、実験的な作風で知られるシェーンベルク初期の大作「グレの歌」をミューザ川崎シンフォニーホール(川崎市)で上演する。「東響の個性を生かして大きな想像体を創り、クラシックを通じて多様性を実現したい」とノットは力を込める。

東響を指揮するノット=平舘 平撮影

イタリア出身で、16年から東京フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者を務めるアンドレア・バッティストーニは毎年約2カ月半を日本で過ごす。「団員とは音楽を通じて強い信頼関係にある」と強調する。

かつて日本のオーケストラは、外国からいかに著名な指揮者を招くかを競い合う風潮があった。NHK交響楽団であればカラヤン、読売日本交響楽団ならチェリビダッケらだ。彼らはカリスマとして君臨するタイプで、リハーサルなどでも厳格な姿勢で臨んだ。

現在では、団員と意思疎通しながら、長期的に成長していく関係を築けるかが重視される。エストニア出身のN響首席指揮者パーヴォ・ヤルヴィ、米国出身の東京都交響楽団首席客演指揮者アラン・ギルバートもそういったタイプといえるだろう。

音楽評論家の山崎浩太郎氏は「各オケの楽団員も若返り、英語での会話など指揮者と意思疎通しやすくなった」と指摘する。大上段ではなく、対等な目線で団員と向き合う外国人指揮者が、日本のオケを進化させる。

(岩崎貴行)

[日本経済新聞夕刊2019年8月6日付]