エンタメ!

エンタな話題

「建築の町」金沢が育む伝統と進取 ミュージアム開館

2019/8/5付 日本経済新聞 夕刊

金沢市に開館した谷口吉郎・吉生記念金沢建築館=北嶋 俊治撮影

金沢出身の建築家、谷口吉郎と息子の吉生氏の名を冠した建築専門ミュージアムが開館した。金沢は中世から近代の建物と前衛的な現代建築が混在し「建築の町」として注目されている。

およそ70もの寺院が集まり、老舗料亭が点在する金沢市寺町。犀川を眼下に望む台地の一角に、ベージュの石壁とアルミのサッシが特徴的な現代建築が現れた。7月26日に開館したばかりの「谷口吉郎・吉生記念金沢建築館」だ。

■谷口父子を顕彰

吉郎(1904~79年)の生家が立っていた敷地を吉生氏が市に寄贈し、全国でも珍しい建築専門ミュージアムとして設計した。東宮御所、東京国立近代美術館などを手がけた吉郎、ニューヨーク近代美術館新館をはじめ国内外で活躍する吉生氏を顕彰するとともに、年2回程度の企画展、レクチャーなどを計画している。

「国際レベルの企画展や国際会議のほか、金沢固有の町づくりや歴史の展示をやってもいい。単なる記念館ではなく、活動する美術館として育ってほしい」。名誉館長の吉生氏がこう期待を込めるのは、近年金沢が「建築の町」として注目されているのを意識するからだ。

武家屋敷跡や茶屋街など城下町の趣あるたたずまいに加え、2000年代に入って金沢21世紀美術館(04年、SANAA設計)、「鈴木大拙館」(11年、吉生氏設計)といった有名建築家による前衛建築が市内に相次ぎ完成した。金沢工業大学と市は13年以降、市内の建築を地区ごとに掲載する地図付き冊子「カナザワケンチクサンポ」(Vol1~5)を作成し、観光案内所などで配布している。JR金沢駅の南東約3キロの圏内に新旧の建築群がコンパクトにまとまっているため、建築巡りを楽しむ外国人の姿も多い。

20年には東京国立近代美術館工芸館(東京・千代田)が「国立工芸館」として金沢に移転してくる。明治時代に市内に建てられた旧陸軍の施設「第九師団司令部庁舎」と「金沢偕行社」を兼六園の脇に移築し、工芸館として活用する予定。新たな歴史的建造物の再生モデルとして話題を集めそうだ。

「伝統的な建物や町並みがきちっと保存継承されている一方で、時代の先端をいくハイカラなものもある。歴史・伝統と進取の気性。金沢はこの2つを持つべきだとずっと言っていたのが吉郎さんだった」。そう振り返るのは建築館館長で金沢工業大学教授の水野一郎氏だ。

同館1階のラウンジでは68年に全国に先駆けて制定された景観に配慮する「金沢市伝統環境保存条例」を紹介する映像が流れる。当時、開発によって城下町特有の町並みが失われることを危惧した吉郎らが中心となり「金沢診断」とも呼ばれる調査が行われ、町づくりの基本方策がまとまり、条例の制定につながった。

吉郎は九谷焼の窯元である旧家の生まれ。「金沢が自分を育んでくれたとよく言われたが、私から見れば、吉郎さんの思想と発想、そして行動力こそが今の金沢を育んだ」と水野館長は指摘する。

■伝統の技法紹介

復元された「迎賓館赤坂離宮和風別館」と谷口吉生氏

同館の企画展示室では吉郎の業績を紹介する開館記念特別展「清らかな意匠」を20年1月まで開催中。日本の伝統建築の技法や装飾意匠を巧みに現代建築に取り入れた代表作を模型や写真などで紹介している。2階の常設展示室も見どころだ。

吉生氏は「大工や左官らの手仕事による建築を“作品”として展示し、日本建築のよさを見せたい」として、父が手掛けた代表作「迎賓館赤坂離宮和風別館」(東京・港、74年)の47畳の大広間と茶室を再現した。オリジナルの建物を何度も実測し、当時の建材も使って細部まで忠実によみがえらせている。

「金沢の持つすぐれた環境が、都市の近代化の中で調和し保たれていくべきだ」

建築館はおよそ半世紀前の、この吉郎の言葉通りに守られた。長い歴史が息づいている建築文化を体感する場となりそうだ。

(編集委員 窪田直子)

[日本経済新聞夕刊2019年8月5日付]

エンタメ! 新着記事

ALL CHANNEL