一つの病で各部に炎症・しこり IgG4関連疾患を知る免疫に異常 がんと識別を

2019/8/5付

目の涙腺や唾液腺、膵臓(すいぞう)、肝臓、腎臓など体のあちこちに炎症が起きてしこりができる「IgG4関連疾患」は、21世紀に入り日本が中心になり概念が確立された難病だ。それぞれ別の病気と考えられてきたが、病変部が異なっても血液中の免疫関連物質IgG4の値が高い共通点が見つかり、全身性の病気とみなされるようになった。診断基準ができるなど認知度も高まっているが、がんなどとの識別が重要だ。

札幌市に住む60代男性Aさんは数年前に鼻炎が起きた。耳鼻科を受診し抗アレルギー薬を処方されたが、なかなか改善しなかった。友人からは「まぶたが腫れている」と言われたものの、Aさんは寝不足によるものだと思っていた。その後、ひげそりの最中に顎の下に硬いしこりがあるのに気づき、別の耳鼻科を訪れた。血液検査でIgG4の値が高いと分かり、札幌医科大学病院を紹介された。

コンピューター断層撮影装置(CT)で検査すると、膵臓にもできものが見つかった。細胞検査なども実施した。ともにIgG4関連疾患であるミクリッツ病(IgG4関連涙腺・唾液腺炎)と自己免疫性膵炎を合併していると判明した。Aさんから詳しく話を聞くと、同病院を受診する半年前から糖尿病治療も始めていた。糖尿病は自己免疫性膵炎が原因と考えられた。

Aさんを診察した山本元久医師(現・東京大学医科学研究所特任准教授)によると「別々の病気だと思っていたが、すべてつながっていたのかと驚いていた」という。ステロイド(副腎皮質ホルモン)剤を投与する治療を受けたAさんの病状は現在改善している。

ミクリッツ病は19世紀に欧州で最初に報告された。その後、症状がよく似たシェーグレン症候群と同じとみなされ、病名が使われなくなった。2004年に山本医師らがIgG4値が高い特徴を報告。別の病気だと分かり、ミクリッツ病の名前が復活した。

IgG4関連疾患は病原体などから身を守る免疫の異常によって起こると考えられている。しこりができる臓器は脳下垂体、涙腺、唾液腺、甲状腺、肺、大動脈周囲、肝臓、膵臓、胆管、腎臓、前立腺など様々。患者は中高年に多く、国内に数万人いると推計される。国の難病にも指定されている。生活の質(QOL)低下を招くこともあるが、この病気で命を失うことは少ないという。

IgG4関連疾患の治療はステロイド剤の服用だ。しこりがどこにあっても基本的にステロイドが効く。免疫の働きを抑えるステロイドには骨粗しょう症や感染症にかかりやすくなるなど様々な副作用の懸念もある。このため症状が治まったら徐々に量を減らす。ただ無理に減らすと再び症状が出る。症状が治まり投薬をやめた場合、5~7年で約半数が再発するという。

医仁会武田総合病院(京都市)の三森経世院長(京都大学名誉教授)は「再発しないぎりぎりの量に抑え、薬を長く使う。さじ加減が重要だ」と話す。患者によっては免疫を抑える別の薬を併用することもある。

ミクリッツ病と並ぶ代表的なIgG4関連疾患が自己免疫性膵炎だ。がん・感染症センター都立駒込病院の神沢輝実院長は「自己免疫性膵炎とミクリッツ病は互いに約2割が合併している」と話す。また「IgG4関連硬化性胆管炎患者の約9割が自己免疫性膵炎を合併する」という。

ただ、様々ながん、リンパ腫、キャッスルマン病など他の病気でIgG4値が高くなる例もある。過去には「自己免疫性膵炎なのに膵臓がんと間違えて手術をした例もあった」(神沢院長)。

その後、IgG4関連疾患の包括診断基準や自己免疫性膵炎の診療ガイドラインなどが整備された。「約10年前からIgG4関連疾患が医師の間でも知られるようになった」と関西医科大学の岡崎和一教授(日本膵臓学会理事長)は話す。

19年1月には神沢院長らを中心にIgG4関連硬化性胆管炎の診療ガイドラインを世界に先駆けて作った。この中で血液中のIgG4値、他のIgG4関連疾患の合併の有無、画像検査、胆管の検査などから判断すると記した。それでも識別しにくい場合は、ステロイドを投与し病気が改善するかをみて別の胆管炎や胆管がんと区別することもある。

一方、IgG4関連疾患患者の中には何らかのがんを併発している人もいる。「IgG4関連疾患に詳しい医師に診てもらうことが大切だ」(三森院長)

海外ではリンパ腫などの治療薬「リツキシマブ」がIgG4関連疾患に効くとの報告もある。日本でも医師主導臨床試験(治験)が計画されたが、実現していない。「今は海外での進展に期待している」と三森院長は話す。

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発症の仕組み 解明進む

IgG4関連疾患の発症メカニズムを調べる研究も進む。関西電力病院の千葉勉院長(京都大学名誉教授)と塩川雅広・京大病院特定病院助教らは自己免疫性膵(すい)炎の発症の仕組みを解明した。

この病気は体内でできた抗体が誤って自分自身を攻撃していると考えられる。結果として「病気を抑えようとIgG4値が高くなっている可能性が高い」と千葉院長は話す。チームは患者の血液から採った抗体をマウスに投与する実験などを実施。膵臓の細胞を支える役割などを持つたんぱく質「ラミニン511」が抗体の標的だった。

患者の中にはIgG4値が低い人もいる。研究成果をもとに血液中の抗体を測れば、診断精度向上が期待できる。「別の抗体もあるとみており研究中だ」(千葉院長)。抗体検査の実用化に向け、企業とも話し合いを始めた。

京大の松田文彦教授らはゲノム(全遺伝情報)や血液中の物質を解析し、IgG4関連疾患の発症リスクを高める遺伝的要因や発症・進行に関するマーカー(目印)を探っている。

(長谷川章)

[日本経済新聞朝刊2019年8月5日付]