映画『メランコリック』 犯罪と日常、奇妙な融合
監督の名前にも出演者の顔にも全然なじみがないがストーリーとその展開のしかたが非常におもしろく、ついひきこまれる。昨年、社会現象にもなった「カメラを止めるな!」ほどトリッキーではないが、先が読めない。味は、こちらのほうがある。
開巻、麻薬の売人をしている長髪の青年とやくざとのやりとり。この青年が主人公なのかなと思う。そうであってもおかしくないマスク。だが、予想は裏切られ、彼はひどいことに……。知らない役者ばかりの映画は、役者の格やタイプで先が見えてしまうということがないのがおもしろい。
主人公は、東大は出たけれど定職につかず、30になっても実家で両親とくらしている鍋岡和彦(皆川暢二(ようじ))。あるきっかけで、近所の銭湯に就職する。
じつは、この銭湯がとんでもないところで(この先は読まないほうが純粋に映画をたのしめると思うが)営業時間外は、やくざの依頼をうけた殺し屋の作業場としてつかわれている。どんなに血で汚しても、すぐに洗い流せるし、釜で焚(た)いてしまえば罪体ものこらない(湯を沸かすほどの熱い殺人?)。
その秘密を目撃してしまった鍋岡は……。
この、まんがのような設定と、銭湯従業員と殺し屋をかねるプロたちのしごとぶりに、妙にリアリティーがあり、それだけでも犯罪ものとして成立するが、それにくわえて、鍋岡を銭湯につとめさせるきっかけになった、高校の同級生のかわいい子(吉田芽吹(めぶき))とのロマンスや、両親との日常など、犯罪世界と水と油に思える要素が、現代的なアクチュアリティーをはこびこみ、独特の奇妙な味をもたらしている。
顔も知らなかった役者たちが、みんなものすごくうまいので、びっくりする。
監督・脚本・編集は田中征爾。共演、磯崎義知。1時間54分。
★★★★
(映画評論家 宇田川幸洋)
[日本経済新聞夕刊2019年8月2日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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