コリコリでスタミナ満点、くじら汁で夏乗り切る 新潟
商業捕鯨が31年ぶりに再開され、注目を集めるクジラ。クジラ料理といえば大阪のハリハリ鍋が有名だが、新潟にも夏場に食べる郷土料理「くじら汁」がある。本皮と呼ばれる、塩漬けにしたクジラの皮付きの脂身をナスなどの夏野菜と一緒に味噌汁にしたものだ。夏に欠かせないスタミナ食として人気がある。
新潟駅から徒歩10分。1966年創業のクジラ料理専門店、元祖くじらやはコース料理のほか、クジラの唐揚げ、刺し身、ステーキなどを提供する。3代目店主、五十嵐剛さん(46)は「くじら汁は唐揚げと並ぶ人気メニュー。しめに頼む人が多い」と話す。
中身は本皮のほか新潟特産の十全ナス、糸コンニャク、ネギ、ゴボウ、ジャガイモ。本皮はさっと湯通しして余分な脂を抜き、昆布をベースにシイタケを加えただしに味噌を少量加えて味を調える。
クジラはコリコリとした歯応えがあるが、臭みはそれほど感じない。だしがしっかりときいており、意外にもあっさりとした味わいだ。五十嵐さんは「県外からのお客さんが4割ほどを占めるが、白い脂の部分を初めて見たという人も多い」と話す。
魚料理とクジラ料理の魚まさは7月から9月までくじら汁をメニューに取り入れている。元祖くじらやと具材はほぼ同じだが、ジャガイモの代わりにダイコンとニンジン、アクセントにミョウガを入れている。店主の本間武さん(51)は「だしはカツオでとり、濃いめの味付けにしている。提供するのは3カ月間だが、注文は多い」と話す。
新潟ではくじら汁を夏に出す居酒屋も多い。郷土料理として家庭に伝わっており、本皮の切り方や具も様々だ。ただナスは必ず入るようだ。本皮はブロック状のものや短冊状に切ったものがスーパーなどの店頭に並ぶ。
新潟市の中心部にある「ぷらっと本町」は鮮魚店や青果店、衣料品店など50軒ほどが立ち並ぶアーケードの商店街。一角にある総菜店、魚やのお惣菜やさんでは本皮のほか、7~8月には店舗でつくったくじら汁を毎日販売している。店長の丸山一雄さん(63)によると「多い日は30~40個が売れる」という。
同じ商店街にある「青海ショッピングセンター」の鮮魚店、古川鮮魚は本皮のほか、自家製の味噌漬けも自慢の一品だ。「夏になると県外に住む地元出身の人から注文の電話がかかってくる」と店を切り盛りする山田隆子さん。夏のソウルフードとして新潟にしっかりと根付いている。
捕鯨が盛んだったわけではない日本海側の新潟でクジラが食べられるようになった背景には、江戸時代から明治にかけて日本海を往来した北前船の存在がある。九州をはじめとする西日本で水揚げされたクジラが北前船で寄港地の新潟にも運ばれ、庶民層に広がったとされる。新潟の食文化に詳しい新潟県立大の佐藤恵美子名誉教授は、くじら汁について「本皮は青魚に豊富で体に良いとされる多価不飽和脂肪酸を多く含む。発酵食品の味噌は脂っこさを緩和するため、理にかなった食べ物」と話す。
(新潟支局長 小田原芳樹)
[日本経済新聞夕刊2019年8月1日付]
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