あるチームはターゲットとなる消費者像を作り上げるためにペルソナ分析などを用いて仮想の人物を浮き上がらせた。木村エリカさん、33歳の独身。一人暮らし、年収380万円、自己主張が強く、インスタグラムを頻繁に使う。本当に実在するような感覚になるくらいだった。
問題意識が深まれば河本教授への質問のレベルが上がるのは当然だ。そんな時、河本教授はこんな言葉を繰り返していた。「データ処理をして出てくる結果は形式知にすぎない。それは演習問題です。データに縛られるのではなく、考えもしなかった暗黙知を探すこと。そう思わへん」。禅問答のようにも聞こえるが長年、データ分析をしてきたからこその重い言葉だろう。
データを自分で探しに行くことの重要性も実感
最終発表を1週間後に控えたゼミ(7月16日)では、まだ気づきが弱く、販売施策の提案のイメージが思い浮かばないチームがあった。河本教授のアドバイスはこうだった。「商品の真の特徴は客のみぞ知る」。
この言葉は学生たちに刺さったようで、改めてSNSなどから消費者の声をたぐり寄せながらなんとかプレゼン資料をまとめ上げた。「中間報告からはかなりブラッシュアップしている」と評者からねぎらいの言葉があった。
「単なる分析ごっこではない。自分で課題を見つけて提案を考えること」を目標にしてきた15回に及ぶ演習。あるチームは最終発表で「プレゼントのお返しとして位置付けるチョコ」という提案をして実務家をうならせた。
河本教授は演習を振り返って「教科書には書いてない、だからこそ学ぶ価値がある」と語る。学生からは「与えられたデータから分かったことの多さと、もっと知るためにはデータを自分たちで探しに行く大切さがわかった」と手応えを感じ取ったようだった。
河本ゼミでは今後も実社会で用いられているデータを中心に実践的な勉強をしていく。
生まれたばかりのデータサイエンス学部の1期生。データがあふれる現代社会から求められる人材と言われながらも先輩がいない不安を感じているのだろうか。「データサイエンティストとして一つの武器があるから自分を作っていけそうです」。森口翼君の言葉が印象的だった。
(編集委員 田中陽)
[日本経済新聞朝刊 2019年7月31日付]