AIのセンス、チェックしてみた 眼鏡や服のコーデ
人工知能(AI)が眼鏡のチョイスや服のコーディネートなどファッションのアドバイスをするサービスが広がっているという。AIの「センス」をチェックしてみた。
JR上野駅の商業施設にある眼鏡専門店「JINSエキュート上野店」では、眼鏡を掛けて鏡の前に立つと、数秒でAIが判定した「どの程度似合っているか」が%で示される。左が男性視点、右が女性視点で、おおむね70%以上で「似合う」、80%以上で「とても似合う」となる。
運営会社のジンズが展開するAIによる似合い度判断サービス「ジンズ・ブレイン」。社員男女3000人が眼鏡を着用した画像30万枚を「とても似合う」「似合う」など4段階で評価した結果を分析し、診断に反映させている。
まずは記者の私物を診断してみた。眼鏡専門店「グローブスペックス」(東京・渋谷)の岡田哲哉社長が勧めてくれたボストン型だ。イタリアの国際眼鏡見本市で世界最優秀に輝いた店のチョイスだけあり、男性83%、女性71%となかなかの高水準だ。
店頭では私物を上回る判定もあれば、下回るものも。AIのセンスは信用できるのか。男性ファッションに詳しいジャーナリストの日置千弓さんに判定してもらった。
男性86%、女性75%と私物を上回った銀縁眼鏡は「私物よりフレームが細く主張が穏やか。掛けた人の雰囲気が伝わりやすい」と、日置さんはAIを支持した。逆に男性75%、女性60%と私物を下回った天地の狭いアンダーリム型は「才気走った印象が強くなり、親しみやすい印象を与える私物より評価は下がる」
記者が半分冗談で掛けたお笑いタレント風の水色の大きなボストン型は男性91%、女性78%と私物を大きく上回った。「大きいサイズや変わった色で眼鏡自体が目立ち過ぎる」(日置さん)と唯一判断が割れたが、AIのセンスは意外に頼りになりそうだ。
上野店では今年1月に始めたサービス。システム上、AIの判定理由が分からないのがもどかしいが、サービス利用者が商品を購入する割合は利用しない場合の1.5倍。AIの「お似合いですよ」の説得力か。
最近、ファッション系で増えているのはスマホのアプリ上で「チャットボット」とよばれるAIの自動対話を使ったサービスだ。カジュアル衣料大手ストライプインターナショナル(岡山市)の定額衣料レンタル「メチャカリ」では昨年10月に導入。1万種類以上の商品から購入履歴や閲覧履歴を元に好みの服やコーディネートを提案する。
記者が商品を見てから「よく見ているカテゴリからおすすめ」のコーナーを見ると、「似合いそうなアイテムを探してみたよ」。ずらり出てきたのは苦手な半ズボン。中には婦人物のパンツもあった。
実は利用者の98%が女性で紳士向け商品が全体の5%と少ない上に、コーナーによっては男性に絞った情報が選べないのが理由らしい。女性が利用すればもっと参考になる提案があるかもしれない。
ユニクロが昨年7月に本格導入したAIチャットボット「ユニクロIQ」の「おすすめコーデ」のメニューには購入履歴や検索履歴を反映した提案機能はない。メチャカリより情報提供が一方的に感じたが、広報担当者は「AIは正確な商品名でなくても理解して検索できる」と話す。
AIは眼鏡のチョイスでも意外に使えるセンスを示したが、人間との判断が大きく分かれるケースもあった。記者の私物を上回った銀縁眼鏡についても「真面目なイメージを重視すれば確かに私物より上だが、ファッション的な印象やセンスは私物の方が上」(グローブスペックスの岡田社長)との見方もある。
結局ファッションで何を重視するかは人それぞれ。AIが人類を脅かす囲碁や将棋と違い、ファッションの「優劣」は主観的な要素が強く、個性に至っては勝ち負けすらない。商品の山から大まかな「お似合い」の見当をつけるのにAIは効果を発揮しそうだが、人柄や雰囲気も含めた「コーディネート」という点では、まだ人間の方がこなれているのかもしれない。
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日本酒の好みも判定
AI判定は味の領域にも進出している。東京・代官山の日本酒バー「YUMMY SAKE コレクティブ」には日本酒の好みを判定してくれるサービス(税込み2160円)がある。10種類の酒を試飲し、専用サイトでおいしいと思う度合いを5段階評価すると、「トロトロ」など12種類の感覚的なキーワードで好みが示される。記者の判定結果は、かんきつ系の香りを表現した「シャラシャラ」。同店のオリジナル酒「シャラシャラ」を試すと、酸は確かに好み。初心者には参考になりそうだ。
(堀聡)
[NIKKEIプラス1 2019年7月20日付]
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