米国の夏彩るBBQ、異文化溶け合うヒューストンの味
米国の夏の風物詩はバーベキュー(BBQ)。週末はご近所で集まり、男性陣が裏庭でスモーカー(薫製器)と格闘しながら肉を調理する。地域や家庭ごとに焼き具合や味付けが異なり、日本でいえばラーメンや雑煮に相当する「国民食」だ。ジョイントと呼ぶBBQ専門店も人気。本場「BBQベルト(地帯)」の西南端、テキサス州ヒューストンを訪れた。
アメフトの名門校ライス大学のチームOB、グレッグ・ギャトリンさん(39)が経営するギャトリンズは繁盛店の一つ。塩コショウがきいた牛バラ肉のブリスケット、脂分がほどよく落ちたポークリブが人気だ。ブリスケットもリブも肉の余分な水分を除くため塩水やマリネ液に寝かせ、ホワイトオークの薪窯に入れセ氏90~120度の低温で半日かけてじっくりいぶす。
地元民には必ず「ナンバーワン」と推す行きつけの店がある。ギャトリンズのほか、1970年代に父親が始めたBBQ専門店の手法と味を息子が守り、CNNの料理番組で紹介されたバーンズオリジナルや、毎日開店1時間前には行列ができるキルンズなどがヒューストンの有名店だ。
「定番のリブやブリスケット以外にも、ヒューストンの人種と異文化の混在感が抜群だ」と話すTJ・トランさん(41)の一押しは昨年末に開業したブラッドブラザーズ。中国系米国人のテリー・ウォン(45)さん、ロビン・ウォン(44)さん兄弟とベトナム系米国人クィー・ホン(46)さんの高校時代からの仲良しトリオが共同経営する。
厨房には塩コショウやチリペッパーのほか、ごま油、魚醤(ぎょしょう)、みりん、七味唐辛子などアジアの調味料が並ぶ。テリーさんは「僕らは米国人だがアジアの食文化も背負っている。融合が僕らの味。いかにもアメリカンストーリーでしょ」と誇らしげだ。
テハス・チョコレート&バーベキューは生チョコに魅せられたスコット・ムーアさん(55)とミシェル・ホーランドさん(48)のカップルと弟のグレッグ・ムーアさん(53)が経営する。
コロンビアやペルーなどからカカオを輸入し本格的なトリュフチョコを作る傍ら、1日に200皿近いBBQを提供する。2日間かけてチリ、ピーカン、干しイチジクなどを煮詰めて作る甘くないチョコレートソース「モーレ」の隠し味は米酢。まろやかな酸味が複雑な味わいを醸し出す。
大航海時代、カリブ諸島に上陸したスペイン人が、島民が野生の豚をあぶり焼きにしているのを見て「バルバコア(丸焼き)」と呼んだのがBBQの語源とされる。入植者とともに調理法も東から西に移動する中で地元の食材や味を加えて広まった。BBQベルトは味や調理法の違いで(1)酸っぱいソースのノースカロライナ(2)豚肉にトマトと糖蜜を加えたソースのメンフィス(3)塩コショウをすり込んで焼いた肉にソースをかけるカンザスシティー(4)牛肉メインのテキサス――の四大スタイルに大別される。
(ニューヨーク=河内真帆)
[日本経済新聞夕刊2019年7月18日付]
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