甘辛サクサクを白飯で 群馬のソースカツ丼
群馬県でカツ丼といえばソースカツ丼だ。メニューに掲げる飲食店が県内各地に多くある。特産の豚肉のカツを白いご飯の上にのせただけというのがこちらの主流。それだけに各店は独自のソースを競っており、新たなアイデアも登場している。
JR高崎駅から北へ徒歩で20分ほど。「ソースカツ丼の店」と書かれたのれんを掲げるのが蒼屋(高崎市)だ。同店ではソースカツ丼に県内で麦を中心とする飼料で育てられた「上州麦豚」を使用。熱々のカツは甘辛いソースに浸しているものの、衣にはサクサクした食感が残る。ほおばると豚肉のうまみが広がり、ソースと油がしみた白米と一緒に食べると箸が進む。
蒼屋は店主の山田亜紀子さんが新しいソースカツ丼を高崎から発信したいと2014年にオープンした。特徴は好みのソースを選べること。今回注文した「特製そーす」のほか「特製しょうゆ」「にんにく」など7種から選べる。
群馬のカツ丼は卵でとじたタイプではなくソースが主流だ。高崎市のほか前橋市、桐生市など県内各地で食べられている。キャベツなどをのせる場合もあるが、カツと白米だけの店舗が多い。
全国では福井県などもソースカツ丼を名物にしている。群馬県の場合、明治初期に富岡製糸場(富岡市)が設立されるなど繊維業で栄えたことが背景にあった。カツレツなど当時としてはハイカラな料理を出す店が多く、やがてカツを白米にのせるだけで素早く提供できるソースカツ丼が広がったようだ。前橋市観光振興課によると、群馬師範学校(現在の群馬大学教育学部)の学生の間で人気を集めたことも影響したという。
調理法がシンプルだけに各店がソースに工夫を凝らす。前橋市で最初にソースカツ丼を提供したとされる老舗が西洋亭市だ。カフェ風の店内で出されるカツ丼のソースはあまり甘くなくてさっぱり。
一方、カツ丼が人気のそば店、そば処大村総社(前橋市)はそばつゆをベースとしているだけに濃くて甘辛い。
タルタルソースを合わせるという新機軸を打ち出したのが安中市の食堂、板鼻館だ。江戸時代の旅籠(はたご)が起源という趣のある店内で「タルタルカツ丼」を出し始めたのは05年。客からマヨネーズをつけてほしいと言われたのがきっかけだった。考案した店長の須賀靖之さん(49)は「よくたたくなどして豚肉をやわらかくし、衣を薄くして軽い仕上がりにする」とこだわりを語る。
令和の時代、群馬県ではどんなソースカツ丼が新たに生まれるのだろうか。
群馬県では豚肉生産が盛んだ。県によると養豚頭数は約63万頭で、都道府県のなかでは5位(2017年2月時点)。ソースカツ丼を提供する飲食店では県内の銘柄豚をこだわって使う例が目立つ。赤城山麓に養豚が多い前橋市では、豚肉料理でまちおこしをしようと豚料理コンテスト「T-1グランプリ」が09年度にスタート。そば処大村総社のソースカツ丼が初代グランプリに輝いたほか、黒酢を使う酢豚や中東料理のケバブ、豚肉を使ったカレーなど、市内の飲食店の多様な料理が選ばれている。
(前橋支局長 古田博士)
[日本経済新聞夕刊2019年7月11日付]
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