介護必要な人も気軽に旅を 車いすバスなどサービス
入浴にヘルパーを頼める例も
体力の落ちた高齢者や介護などの支援が必要な人でも無理なく旅行を楽しめるユニバーサルツーリズムのサービスが広がってきた。受け入れ体制の整備に力を入れる観光地が増え、現地でのサポートが充実したツアー商品も登場している。「家族に負担を掛けるのでは」と心配をせずに気軽に旅行に出かけられる環境が整いつつある。
「リフト付きバスで巡る!初めてのスイスを楽しむ旅8日間」、看護師が同行する「芸術と音楽の都ウィーン6日間」――大手旅行会社のエイチ・アイ・エス(HIS)が、介助が必要な高齢者などを対象に企画している旅行ブランド「たびのわ」の一部だ。海外だけでなく国内旅行も多数用意されていて、年間で70~80本のツアーを催行している。
移動には車いすのまま乗り降りできるバリアフリー車両を用意する。介助に必要なトレーニングを受けた添乗員が同行し、同行した家族といっしょに車いすで移動する手助けをしたり、宿泊先で介助者に必要な道具を用意したりと気を配る。なかには社会福祉士や介護関係の資格を持つスタッフもいる。
1回のツアーの参加者は10人程度と少なめだ。移動時間も余裕を見て「通常のツアーに比べてゆっくり観光して回るようにしている」と、HISのユニバーサルツーリズムデスクを担当する薄井貴之シニアセールスマネージャーは説明する。
国内では、ユニバーサルツーリズムの推進や障害者支援に取り組むNPOなどと協力して、旅行先での手助けにも力を入れている。例えば入浴の手助けが必要な参加者には、入浴の時間だけ地元のヘルパーに手伝いに来てもらえる。ひとりで参加したい人は介助者のツアー代金を負担すれば、HISが契約している介護資格を持つ登録スタッフに出発地から同行してもらうことも可能だ。ただ1人当たりのツアー代金は少し高めで「通常のツアーの1.3倍程度」(薄井さん)という。
観光庁が2019年3月にまとめた「ユニバーサルツーリズムの促進業務報告書」によると、介護が必要な人など向けの旅行の取り扱いをしているとした旅行会社は回答した442社のうち38%。今後取り扱いしたいの11%を加えるとほぼ半数になる。
ユニバーサルツーリズムの広がりに刺激されて観光地の施設でも対応する動きが広がっている。HISがツアーを開催している上高地の温泉旅館では、貸し切り風呂をバリアフリー化しただけでなく、入浴の手助けをする体制まで整えた。鹿児島県の奄美大島の施設では、車いす利用者向けのエレベーターを設置した船も整備し、車いすの必要な人でもダイビングやカヤックなどを楽しめるようにしている。
施設の整備が進むことで「個人旅行も受け入れやすくなってきた」と薄井さんは話す。ユニバーサルツーリズムに取り組む観光地が連携する日本バリアフリー観光推進機構のように、バリアフリー対応の施設や介助支援などの情報を提供しているところもある。
風景を楽しんだり、温泉を満喫したりする旅行は、健康維持にもつながる期待がある。介助が必要な人やその家族も、思い切って旅行に出かけてみてはどうだろう。
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80歳以上で宿泊回数減 「健康上の理由」が最多
国土交通省国土交通政策研究所が2016年にまとめた「車いす、足腰が不安なシニア層の国内宿泊旅行拡大に関する調査研究」によると、1人当たりの年間宿泊旅行の平均回数は80歳以上で0.50回と、全体平均の1.26回に比べて大幅に少ない。同じシニア層でも60歳代は1.41回、70歳代は1.33回と全体平均を上回っていて、80歳代になると急に落ち込んでいることが分かる。
旅行に行かなかった理由としては、70歳以上の高齢者の場合は「健康上の理由」が約3割で最も多い。69歳以下は「経済的余裕がない」や「時間的余裕がない」が多く、健康上の理由は1割弱にとどまるのとは対照的だ。ユニバーサルツーリズムの普及で高齢者の旅行市場が拡大すれば、ツアーの充実や選択肢の多様化も期待できそうだ。
(編集委員 小玉祥司)
[日本経済新聞夕刊2019年7月10日付]
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