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医療現場でのAI活用を模索 病気の早期発見に挑む 千葉大学 治療学人工知能研究センター

2019/7/10付 日本経済新聞 朝刊

治療にAIの活用を目指す川上センター長(奥)ら(千葉大学で)

千葉大学は2018年4月、大学院医学研究院に「治療学人工知能(AI)研究センター」を設立した。進展が著しいAIを活用し、将来の病気を予測して発症を防いだり患者一人ひとりに最適な治療法を提供したりする目標を掲げる。医学分野でのAI利用のモデルケースを築き、他大学をリードする拠点をめざす。

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「最近、何か面白い発見がありましたか」。川上英良センター長の研究室に集まった研究者らは、取り組んでいるテーマや進捗状況などを次々に発言した。会議というよりはざっくばらんな座談会といった雰囲気だ。同センターの教授や研究員だけでなく学生らも参加できる。ここでの議論が大きな研究テーマにつながることもある。

センターは医療AI研究部門、基礎研究部門、企業との共同研究部門など5つの部門からなり、それぞれに教授や准教授を配置している。その顔ぶれが、医学研究院としては異色だ。

川上センター長は高校時代に数学オリンピックに出場した経験がある。東京大学医学部を卒業後、研修医を経ずにAIを医学に応用する研究を始めた。「周囲の人からよく、変わり者だと言われた」(川上センター長)と笑う。

各部門の教授やチームリーダーも、医師免許を持ちながらAIを学び、現在の基幹的な技術である「深層学習」をうまく使いこなす。医学研究院長の中山俊憲教授は「医学分野と数学やデータ分析の分野の双方を橋渡しし、課題を解決できる人材が豊富にいる。このセンターの強みになっている」と解説する。

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中核となる医療AI研究部門では、検査で集めた様々な数値データや患部の画像データなどをAIに学習させている。人間では気付かない病気の兆候をAIで早期に発見する課題に挑んでいる。がんや生活習慣病の研究で成果が出始めているという。

一例は、良性の腫瘍が今後、悪化するのかしないのかを高い確率で見分ける診断技術だ。このAIを利用すれば、多くの医師が経験を積んだ専門医から助言を受けているかのように診断精度を高められる。手術や投薬など適切な治療法の提案につながる。また生活習慣病では、患者が今後どのような状態をたどるかを予測できるようにした。数年後にも診断の現場に導入したい考えだ。

AIは膨大なデータを分析して一番よい答えを出す。しかしその過程は見えず、人間には判断した理由が分からないケースがある。命を扱う医療分野でAIを利用する際の大きな課題といわれている。川上センター長は「AIはあくまでサポート役だ。医師が診断の最終的な責任を負う点に変わりはない」と強調する。なぜその判断が下されたのかを説明できるAIの開発もテーマに掲げる。

世界では米国や中国の巨大IT企業が、次に有望な市場として医療分野に狙いを定め、医療データを集め始めている。優位な立場を生かして競争力の高い新しい事業を打ち出してくるかもしれない。センターは、世界のAIの医療活用の潮流に乗り遅れないよう、革新の最前線になるという使命も担っている。

患者の医療データは個人情報で法律に沿って慎重に取り扱う必要がある。同センターは医療機関所属という特色を生かし、医療データをスムーズに集めて利用できるようにし、海外の大手IT企業にも負けない体制を敷く。川上センター長は「このセンターをモデルに日本の医学研究や医療現場にAIの活用が広がってほしい」と願っている。

(三隅勇気)

[日本経済新聞朝刊2019年7月10日付]

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