映画『田園の守り人たち』 抑えた演出、覆う死の影

第1次大戦下、男たちが戦場に消えた農村で懸命に生きる女たちの姿を描く。堂々たる風格の秀作だ。

東京・神保町の岩波ホールで公開(C)2017-Les films du Worso - Rita Productions - KNM - Pathe Production - Orange Studio - France 3 Cinema - Versus production - RTS Radio Television Suisse

舞台はフランス西部の田園地帯。農園をもつ未亡人のオルタンス(ナタリー・バイ)は、息子ふたりを戦争にとられ、娘のソランジュ(ローラ・スメット)とともに、苛酷(かこく)な農作業に追われている。

麦の収穫が迫り、オルタンスは、孤児院出身の20歳の娘フランシーヌを雇いいれる。働き者で気立てのよいフランシーヌはみんなに気に入られ、家族同様に迎えられる。休暇で戦地から戻った次男のジョルジュもフランシーヌに惚(ほ)れこみ、二人は恋仲になる。

ジョルジュが戦地に戻ったあと、ソランジュが駐留中のアメリカ兵と噂を立てられる。その悪評を、母のオルタンスはフランシーヌに転嫁し、解雇をいい渡す。だが、そのときフランシーヌはジョルジュの子を妊娠していた……。

物語の主軸をなすのは、母と娘と嫁になるべき若い女の三つ巴(どもえ)の葛藤である。しかし、美しく広大な田園の自然描写と、まるで叙事詩のような悠揚迫らざる演出のおかげで、感情的なメロドラマの安易さはどこにもない。フランス映画には珍しく言葉も控えめで、人間の内面を、抑えた表情と動作から滲(にじ)みださせる。

とりわけ感嘆を抑えがたいのは、横長のシネマスコープ画面の充実ぶりだ。撮影は名女性カメラマン、キャロリーヌ・シャンプティエ。画家たちが魅了されてきたフランスの田園の魅力を見事に捉え、四季に従って変化するその光、温度、色彩を細やかに定着する。

戦争をほとんど描かないが、これは紛れもない戦争映画である。冒頭の冷厳な死体の山の描写が表すように、この美しい田園は死の影におおわれている。だが、その残酷さを声高には語らない。ここでも抑制という美徳が貫かれている。2時間15分。

★★★★

(映画評論家 中条省平)

[日本経済新聞夕刊2019年7月5日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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