パニック障害もっと知って 患者らが講演や情報共有
安心感で発作起きにくく
病名から誤解をまねきがちな「パニック障害」の患者らが、職場などで少しでも周囲の理解を得られるようにと、情報発信に取り組んでいる。企業での講演を通じた啓発のほか、病気克服の成功体験を共有して相談活動につなげる例も。発症のメカニズムは未解明だが、周囲の理解があるという安心感で発作が起きにくくなることもあるという。
パニック障害は心臓や血管などに特に異常がないのに動悸(どうき)や発汗、息苦しさなどの症状が起こる。脳の神経伝達物質の働きが崩れることが原因とされるが、物質の働きが崩れる理由は分かっていない。一度発作を起こすと、同じような環境になると「また発作が起きるのでは」と不安に陥り、発作を起こすこともある。
「不安が起こることをありのまま受け入れてください」。パニック障害を抱える岡本清秋さん(71)は精神疾患の患者らでつくるNPO法人「生活の発見会」(東京・墨田)の理事長を務め、自身の克服体験談を会を通じてほかの患者と共有している。
岡本さんがパニック障害の発作を初めて起こしたのは33歳のとき。病院に運ばれ3日間入院したが、身体的異常は見つからなかったという。
20代後半で同僚が脳出血で突然死するのを目の当たりにした。「自分も体調が悪くなったとき、同じように苦しんで死んでしまうのではないか」。そう考えるようになり、少しでも体調が悪いと、動悸や息切れがするようになっていたという。発作を起こしたのは日々の疲れで体調が悪化し、同僚の突然死を思い出したときだった。
半年後に不安を完全になくそうとせず、ありのままに受け入れて付き合っていく「森田療法」を知った。それ以降、不安を感じても大きな発作を起こさずに過ごしている。岡本さんは「症状や程度は人によって全く違う。自分に合う治療法や対処法を見つけてほしい」とアドバイスする。
精神疾患の啓発や普及活動を行う「シルバーリボンジャパン」(横浜市)は年に10回程度、学校や企業などで、パニック障害を含めた精神疾患について講演を続けている。
講演では「パニック障害の患者がいる場合にどう接したらよいか」などを説明する。逃げ場のない満員の通勤電車が発作の原因となる患者も多いため、ラッシュアワーを避けた出勤時刻の設定など多様な働き方を受け入れることを企業に提案している。代表の関茂樹さん(37)は「パニック障害の認知度は近年少しずつ高まっており、講演依頼も増えている」と話す。
患者同士が集まり情報交換をすることが不安の緩和につながることもある。近畿地方を中心に活動する「なかまの会」の会員は約120人。年に数回イベントを開き、精神科医を講師に招いて講演を聞いたり、患者同士で悩みを打ち明け合ったりしている。
代表の早野強さん(49)は「周りの人には言い出しづらくても、患者同士なら打ち明けられる悩みがある。会の集まりを通じて少しでも患者の負担が減らせられれば」という。ただ「本当に助けが必要なのは、会合に来られないほど症状が重い人だ」と懸念する。
なかまの会では、会合に来られない人でも情報が得られるようにと、会報を発行したり、会のホームページに病気克服者の体験談を掲載したりしている。早野さんは「医学的な情報も大事だが、治った人の話や体験を聞くことが何よりも参考になる」と話している。
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誰もが患う可能性 専門医に早めの相談を
厚生労働省によると、パニック障害の受診者数は1996年に約3千人だったが、2017年は約8万3千人に増えた。専門の医療機関が増えるなど認知度が上がったことも背景にあるとみられる。大阪府医師会の阪本栄理事(精神科)は「発症のきっかけがないことがこの病気の特徴。誰もがなり得る可能性がある」と指摘する。
効果的な治療法の一つである認知行動療法は、少しずつ成功体験を重ねさせて、不安に対する耐性を高める。例えば急行電車の乗車時に発症した人の場合、最初は発作が起こらない範囲で、無理せず各駅停車で1駅だけ乗車する。克服できたら徐々に乗る区間を伸ばし、「ここまで乗っても大丈夫」という心理状態を積み重ねる。
森田療法は精神科医、森田正馬が1920年(大正9年)ごろに生み出した治療法で、「症状は治さなくていい」としてあるがままを受け入れる心理療法だ。このほか、神経伝達物質の崩れを整えるための薬剤治療も効果があるとされている。
発作を恐れて外出できなくなり、うつ病など他の精神疾患を併発する患者もいる。阪本理事は「パニック障害が疑われる発作が繰り返すなら、専門医に早めに相談してほしい」と話している。
(玉岡宏隆)
[日本経済新聞夕刊2019年7月3日付]
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