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学生が本に親しむ機会は増えるのか。写真はイメージ=PIXTA

学生が本に親しむ機会は増えるのか。写真はイメージ=PIXTA

経済学に光を当てる岩波新書の「入門の入門」シリーズの売れ行きが良い。従来の岩波新書とは異なる路線の本に見えるが、編集者は何を意図しているのか。

大学生協では2千円以上する本は売れないし、最近の学生は教科書でも値段が高いと感じれば買わない――。出版界でよく耳にする、出版不況を表す話題の一つだが、慶応大学の坂井豊貴教授と岩波書店新書編集部の永沼浩一編集長は、この話をむしろ前向きにとらえた。「教科書代わりになる新書を出せば、学生だけでなく、社会人にも推奨できる」と意見が一致したという。一般の読者がなるべく近づきやすいように「入門の入門」というタイトルを考えたのは坂井氏。『ミクロ経済学入門の入門』(2017年4月)はこうして生まれ、田中久稔著『経済数学入門の入門』(18年2月)、鎌田雄一郎著『ゲーム理論入門の入門』(19年4月)へと続くシリーズとなり、出版部数は累計で5万部弱に達している。

「何処(どこ)の馬の骨だか分からない人が書いた解説なんて、信用ならないでしょ?」。『ゲーム理論入門の入門』はこんな自己紹介から始まる。ゲーム理論は「前提知識をほとんど(というかまったく)必要とせず学べる理論」と強調したうえで、基本を解き明かす。

経済分野の岩波新書を代表するのは、古くは『自動車の社会的費用』(1974年)、『経済学とは何だろうか』(82年)、『バナナと日本人』(82年)、近年では『格差社会』(06年)、『新自由主義の帰結』(13年)、『ポスト資本主義』(15年)といった作品だろう。市場の働きを万能視する主流派の経済学に厳しい目を向け、経済成長の限界や環境問題に切り込む作品群が、新書全体のイメージを形作ってきた面がある。岩波書店から何冊かの本を出している著者の一人は「『入門の入門』シリーズは岩波新書にはなじまないのではないか」と不満を漏らす。

永沼編集長は「岩波新書の伝統を壊すつもりはない」としながらも、「新書という本の種類さえ知らない学生が増えている。入門書で新書の良さを実感し、経済学の基礎を理解したら応用編の新書にも手を伸ばしてほしい」と期待を込める。編集の基本方針を守りつつ、読者の変化に対応せざるを得ない出版界の苦闘は続く。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2019年6月29日付]

ミクロ経済学入門の入門 (岩波新書)

著者 : 坂井 豊貴
出版 : 岩波書店
価格 : 799円 (税込み)

経済数学入門の入門 (岩波新書)

著者 : 田中 久稔
出版 : 岩波書店
価格 : 821円 (税込み)

ゲーム理論入門の入門 (岩波新書)

著者 : 鎌田 雄一郎
出版 : 岩波書店
価格 : 821円 (税込み)

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