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映画『COLD WAR あの歌、2つの心』

2019/6/28付 日本経済新聞 夕刊

『イーダ』でアカデミー外国語映画賞を受賞したポーランドのパヴェウ・パヴリコフスキ監督の待望の新作である。前作と同じく清澄なモノクロの画面が、男女の腐れ縁の物語に伝説のような格調を加えている。

東京・有楽町のヒューマントラストシネマ有楽町ほかで公開

物語は1949年のポーランドに始まる。ピアニストのヴィクトルは、田舎の村を訪ね歩き、歌と踊りの才能ある少年少女を養成する仕事を行っている。ヴィクトルはある村で、魅力的な少女ズーラを見出(みいだ)し、心を奪われる。ズーラは実の父親に体を求められて殺し、執行猶予中だった。

ヴィクトルとズーラは激しい恋仲となる。社会主義政権の圧力で好きな音楽ができないことに絶望したヴィクトルはズーラを誘って亡命を決意する。東ベルリンで西側に脱出しようとするが、約束の場所にズーラは現れなかった。

パリでジャズを演奏するヴィクトルのもとに、舞踊団のツアーでズーラがやって来る。互いの意志を確認した二人だが、運命は彼らを翻弄し、二人は行きつく場所を見出せない……。

これほど美しい白黒の画面を演出できる監督は現在ほとんどいないだろう。すべてをモノクロに沈めることで余計な思いを殺(そ)ぎおとし、人間の癒(いや)しがたい妄執を純粋な感情のほとばしりに変えるかのようだ。

もう一つの特色は、物語の時間構成である。事件の経過をぶつ切りにして、15年の時間の一部分だけを浮かびあがらせ、語られない余白にこそ真実があるという印象を紡ぎだす。そこで起こることはすべて、単なる偶然のようにも、厳然として動かしがたい運命のようにも見えてくるのだ。

息を呑(の)むほど感動的なのはラストの10分で、女の「ここから連れだして」というセリフに思いのすべてが凝縮され、それから冒頭の荒れ果てた寺院に戻って終わるまでの切迫した流れは見事というほかない。1時間28分。

★★★★

(映画評論家 中条省平)

[日本経済新聞夕刊2019年6月28日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

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