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ばん馬が引く馬車バー 1ドリンク+つまみで帯広巡り

日経MJ

2019/6/28付

やさしい「ムサシコマ」がひく馬車で、爽やかな風を感じながら帯広市街を巡る

北海道帯広市の市街を散策していると、思いがけない発見があった。なんと馬がコンテナのような馬車を引いていた。競馬場で目にするサラブレッドと比べて一回り大きく、一目でばんえい競馬に使われる「ばんえい馬」だとわかった。近くのスタッフに聞いたところ、「移動式のバーですよ」という。二度驚いた。

これは「馬車BAR」といい、JR帯広駅(北海道帯広市)近くで「HOTEL NUPKA(ホテルヌプカ)」などを運営する「十勝シティデザイン」の馬車事業だった。

この業態を発案し現在は同社の馬文化事業部のマネジャー、永田剛さんによると、「帯広に魅力を感じ20年前に移住しそれ以来、この土地の魅力を発信できないかと考えてきた。そうした中、帯広に残っているばんえい競馬の“馬”に着目した」と話す。

馬車は2階建てで、合わせて約20平方メートル。バーとしては十分なスペースだ。馬車は1階(室内)12席と2階(屋外)6席の計18席。料金は1人3000円(税別)で、1ドリンクとおつまみが付いてくる。コースは帯広街中の一般道を約2キロメートル走行する。所要時間は約50分で、途中休憩15分を挟む。

おつまみは軽食だが、十勝の食材をふんだんに取り込む

予約が必要で営業日は月、火、金、土曜日の週4日。それぞれ午後6時、7時、8時の1日3便で運行する。馬車BARがスタートしたのは4月だが、6月の時点ですでに利用者は1000人を超えている。これまで広告はほとんど出しておらず、口コミで広がっているという。

料理はヌプカのキッチンで作り、運行のたびに積み込まれる。乾き物などではなく、十勝の旬な食材を使っている。バーで提供される「旅のはじまりのビール」は、同社が十勝の大麦で仕込んだ珍しいクラフトビールで、地域食材のアピールも欠かさない。

ばんえい競馬は馬に騎手とウエイトを搭載した鉄製のソリをひかせて障害物を越えて競う。それに使われるばんえい馬は、引退するとほとんどが食用肉になるが、永田さんは「それだけではもったいない」と考えていた。

馬車BARのきっかけの一つに、馬車をひく「ムサシコマ」との出会いがあった。この馬はとにかくやさしくておとなしい。「馬は個体ごとの性格に違いがあり、これほどやさしい馬はいなかったので馬車BARのために引退してもらった」と永田さん。筆者もムサシコマを触らせてもらったが、とてもおとなしくて、くりんとしたかわいい目が印象に残った。

夏場の観光シーズンを迎えて予約が埋まる日も出てきている。順調なスタートを切った馬車BAR。その背景には地域の埋もれたお宝を発掘した永田さんの着眼と、地元産品の魅力を熟知した十勝シティデザインの地元力、そしてホテル施設の有効活用があってこそ結実したと感じた。

移住者の新鮮な視点と地域密着企業の出会いで生まれた帯広の新しい観光資源に注目したい。

(フードジャーナリスト 鈴木桂水)

鈴木桂水(すずき・けいすい)
フードジャーナリスト・食材プロデューサー。美味しいお店から繁盛店まで、飲食業界を幅広く取材。“美味しい料理のその前”が知りたくて、一次生産者へ興味が尽きず産地巡りの日々。取材で出会った産品の販路アドバイスも行う。

[日経MJ 2019年6月28日付]

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