脱・裏メニュー、濃厚たれで豪快 亀山みそ焼きうどん
三重県中北部、亀山市の地元グルメ「みそ焼きうどん」は赤味噌ベースの濃厚な味噌だれを絡める。しょうゆベースとはひと味違う味噌の香ばしさ、甘辛さは、ビールや日本酒、ご飯と相性抜群だ。
みそ焼きうどんを提供するのは30店ほど。自分で焼いて食べるセルフスタイルの店と、厨房で調理済みのアツアツを食す店に分かれる。
セルフスタイルの人気店は「焼肉・ホルモン」の看板を掲げる亀八食堂や亀とん食堂など。大量のキャベツの上に肉やホルモンをのせ、味噌だれをかけた状態で出てくる。それを、鉄板の上で豪快に焼いていく。途中で、あるいは締めでうどんを投入するのが昔ながらの食べ方だとか。
"途中のうどん派"の桜井義之市長(56)の一押しは「強火にして汁気を飛ばし、うまみをたっぷり吸わせたピリ辛のうどんを箸でつつく」。確かに、いっそう酒が進む。
川森食堂でも、まずは野菜や肉、ホルモンを盛りつけた「鉄板みそなべ」を出す。見た目のインパクトが大きい。地元の小山、関富士(せきふじ)に似せた盛り方で、2人前の分量の高さは25センチほど。通の客は「関富士盛り 2人前ね!」と注文する。
3代目店主、川森篤さん(38)がインスタ映えを狙って考案した。津市の創作料理店などで修業した経験をチーズなどのトッピング作りにも生かす。「みそ焼きうどんを溶き卵につけ、すき焼き風に食べてもおいしい」と話す。
みそ焼きうどんは一昔前まで焼肉店系の「裏メニュー」だった。ご当地グルメの大会「B-1グランプリ」を目指すまちおこしの機運が高まり、定食屋や喫茶店でもメニュー化された。
老舗のうえだ食堂は単品のほか定食で提供。厨房で調理したアツアツの鉄板のみそ焼きうどんを、ゆで卵とカイワレ、紅ショウガで彩る。
店主の上田武さん(68)によると、人気のホルモン定食と同じ自家製の味噌だれを使う。持ち帰り用で瓶詰の販売も始めた。妻の昌子さん(62)は「よその店に比べてニンニクと唐辛子は控えめ。味噌汁にも合う」と話す。
亀山食堂は専用の味噌だれを作った。店主の内田護さん(76)によると、昔からのタレにトウバンジャンや砂糖などを加え、甘辛くアレンジしたという。セルフスタイルはそのままで、年季が入ったちりとり鍋が「古くて新しい味」を巧みに演出する。
具材、味付け、食べ方。一つとして同じものはない。やはりB級グルメは奥が深い。
亀山市は東西の交通の要。昭和30年代に旧国道1号(東海道)沿いに点在していた焼肉店が、ホルモンの臭みを消すため、赤味噌ベースの濃厚なタレを使うようになったという。ホルモン料理は「安くて、スタミナが付く」と、長距離トラックの運転手などに好評だった。
「亀山みそ焼きうどん」と命名し、まちおこしに取り組む伊藤峰子さん(62)によると、年内にうどんマップを改訂する。どの店がいつ、どんなきっかけで裏メニューを始めたのか――。今もって謎という。
(津支局長 山本啓一)
[日本経済新聞夕刊2019年6月27日付]
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