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謎の落書きアーティスト バンクシーってどんな人?

2019/6/24付 日本経済新聞 夕刊

都庁にはバンクシーが描いた可能性のあるネズミの絵を見ようと、3万5000人が詰め掛けた(東京都新宿区)

謎に包まれた英国のアーティスト、バンクシーとは一体どんな人物なのか。関連本の翻訳を多数手掛け、本人にインタビューをしたこともある鈴木沓子氏に寄稿してもらった。

英国では国民的アーティストになったバンクシー。正体不明の「匿名」のままで、世界的にも有名になったケースは、おそらく初めてのことだ。

有名になった今もストリートで作品の発表を続けるバンクシーは、もともとグラフィティ(落書き)アーティストとして活動を始めた。しかし、イラク戦争や難民問題を告発する作品から、「悪ふざけ」のような作品まで、世界を越境しながら展開する“アートなゲリラ戦”の手法は、一般的なグラフィティとも一線を画している。

例えば、イスラエルとパレスチナを分断する「分離壁」では、壁のひび割れから美しい景色が広がる“だまし絵”を描き、膠着状態が続く中東の地に風穴を開けた。

また、著名な美術館や博物館で白昼堂々、自分の作品を勝手に展示した時には、一部の権力者によって私物化されてきた美術史や、マネーゲームに侵食された現代アート界を嘲笑して「アートは誰のものか」を問うた。

■ユーモアの精神

アクリル板で保護されるバンクシーの作品(ロンドン)

つまり、バンクシーは、グラフィティにとってのキャンバスである「壁」を「自分たちの場所を自分たちの意志で決定できる“市民の自由”を阻むもの」と広く再定義して、「見える支配」と「見えない支配」に警鐘を鳴らす、確信犯と言える。

とはいえ、教条主義に陥らないユーモアやいたずらがあることが特徴で、動物や童話の登場人物など大衆的なキャラクターや社会問題を数多く描いてきた。

それは現代アートやグラフィティの専門知識がなくても楽しめる、そして知識があればよりわかる“一般市民のためのアート”としてSNS(交流サイト)を通じて広まった。

近年ではディズニーランドを揶揄(やゆ)した遊園地を英国サマセット州のウェストン=スーパー=メアに期間限定でオープンしたり、パレスチナ問題を伝えるため、分離壁が一望できる立地に「世界一眺めの悪いホテル」を建設したり、作品の規模が巨大化している。

その裏では、バンクシーが中心となる制作チームのほか、独自の作品認証団体や広報、リーガルチームまでを揃(そろ)えているとも囁(ささや)かれるが、いまだに表立ったビジネスは行っておらず、どのように収益化して運営しているのか、その実態は謎に包まれている。

バンクシー自身の素顔もいまだ不明だ。過去に英国のミュージシャン「マッシヴ・アタック」の3Dではないかという噂が流れて、注目を集めたが、この高度情報化社会で今なお「匿名」を守り続けている。

というのも、どれほど作品の価値や人気が上がろうと、結局グラフィティは違法行為で、処罰逮捕の対象になることは免れないからだ。

■対話の場を創出

しかし、今ではバンクシーの作品に限って、作品を撤去せずに残す地区も増えている。市民からの根強い支持があり、また作品が街づくりや観光にも寄与している点などが考慮された結果、各地の行政の対応は“ダブルスタンダードがスタンダード化”している。

鈴木沓子氏

その理由のひとつとして、バンクシーの作品には、地域や社会問題を考えさせる仕掛けがあるという点が大きい。

今年のゴールデンウイークの東京都庁での展示騒動でも、作品の内容にとどまらず、落書きとアートの違いは何か、公共圏での表現活動の自由、作品の取り扱い方法まで、さまざまな議論を呼んだ。

そこにはマスメディアが“みんなの(マス)メディア”ではなくなった時代に、さまざまな人が立場を超えて、共通の課題をめぐって対話や協業ができる場、つまり、街場から「公共」を創出していることが評価されている。

[日本経済新聞夕刊2019年6月24日付]

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