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スマート農業は便利で豊かな農村社会を実現する力を秘めている=イラスト・よしおか じゅんいち

スマート農業は便利で豊かな農村社会を実現する力を秘めている=イラスト・よしおか じゅんいち

ICT(情報通信技術)を利用したスマート農業が広がっている。といっても農家の間ではまだ評価が分かれているようだ。

民俗学者で自らも農業を営む野口憲一著『1本5000円のレンコンがバカ売れする理由』(新潮新書・2019年)はスマート農業を「うーん。やめといた方が良いんじゃないですかね?」という。今までのやり方と比べてコストパフォーマンスが良くないと考えているようで、「全然スマートじゃない」と断じる。

他方、ビジネスコンサルタントから農業者に転じた有坪民雄著『誰も農業を知らない』(原書房・18年)は、「(あらゆるモノがネットにつながる)IoTは革命になりうる」と前向きの評価だ。機械の自動運転化や大量のデータを用いた精密農業に可能性を見て取る。2人とも学者やコンサルタントを経験して就農しており、説得力がある。農村には、スマート農業に前向きな考えと距離を置く見解が混在しているのだろう。

進む技術革新

前向きな農業者には2つの特徴がある。ひとつは水田の規模なら100ヘクタールを優に超えるなど、大規模な経営を行っていること。そして契約栽培等を行い、生産から消費まで価値を高めながらつなげる「フードバリューチェーン」全体を視野に入れたマーケットを意識していること、である。

ただ、こうした農業者の比率は非常に少ない。ほとんどの農家は「やめておいた方が良い」という方に属している。スマート農業は、現実にはまだ黎明(れいめい)期といったところだろう。

しかし、技術革新は参加する農家数では語れない。現に少数の前向きな農家群は、我が国の農業産出額で半分近いシェアを持っている。今後さらに伸び、10年後には7割以上になると予測されている。スマート農業は急速に日本農業を覆いはじめている。

その様子は、窪田新之助著『日本発「ロボットAI農業」の凄い未来』(講談社+α新書・17年)や、三輪泰史他著『農村DX革命』(日刊工業新聞社・19年)に具体的で詳しい。農業用センサーやクラウドが次々と開発され、ロボットトラクターやコンバイン、ドローン、「除草用ルンバ」が走り回る圃場の光景が描かれている。農場のデータがデジタル化され、そのやりとりによって作物の能力が最大限に引き出され、農業機械の自動化などの効率化が進んでいる。

データ共有が鍵

技術革新だけではない。データ共有は経営改善も進める。作業ミスの削減や工程の合理化、労務管理への応用、さらには圃場ごとのコストの把握にも有効だ。もしかすると技術革新よりも、データの共有による経営改善の方が農業生産性向上の効果は大きいかもしれない。さらには付加価値の高い農業を作り、医療や福祉、観光等と融合して新たな産業を創出させ、また便利で豊かな農村社会を実現するといった力を秘めている。

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