映画『きみと、波にのれたら』水が結ぶファンタジー
フランスのアヌシー国際映画祭はアニメーションの最高峰だ。ここでグランプリを受賞して一躍世界的なアニメ監督となった湯浅政明の最新作である。
ヒロインのひな子(声・川栄李奈)はサーフィン好きの女子大生。ある港町に引っ越してきて、サーフィンに明け暮れる。ひな子を見た消防士の港(声・片寄涼太)は、彼女のサーフィンする姿に魅せられる。
そんなある日、ひな子の住むマンションが、違法な花火からの引火で火事になり、港はひな子を救出する。これは火と水の戦いの物語でもあるのだ。
ひな子と港はデートを重ね、一緒にサーフィンすることで水の魅力に目覚め、絆を強くしていく。しかし、ある早朝、ひな子をひとり残して海岸にサーフィンに出かけた港は……。
ラブストーリーとしてはごく平凡な始まりである。恋人たちの感情の深まりをサーフィンに託し、日常的なしぐさをじつに丹念に描くことに好感がもてる。
しかし、港を失ったひな子のトラウマが港の霊(?)をひき寄せるところから、ファンタジーとしてにわかに不可思議な色彩を帯びてくる。サーフィンの水が二人を結びつけたように、港のイメージも水によって実体化するのだ。
アヌシーでグランプリを取った『夜明け告げるルーのうた』では、海の水が鮮烈な魔術的タッチによってダイナミックに描きだされていた。本作でも、ラストで燃え上がる廃墟(はいきょ)のビルに閉じこめられたひな子が、港の霊に助けられて、火を制圧する水の戦いに乗りだす。ひな子が空中で旋回する水に乗ってサーフィンする場面が圧倒的だ。
悲恋とトラウマの克服という物語を思いきって超現実的なファンタジーに仕立てたところに本作の独自性がある。とくに水の造形とアクションのアニメ表現に斬新さが見られる。1時間36分。
★★★
(映画評論家 中条省平)
[日本経済新聞夕刊2019年6月21日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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