打ち上げ花火作ってみた 咲かせて体感、職人が生む華
夏の夜空を彩る打ち上げ花火。熟練した職人の技だが、素人でも自作の花火の打ち上げ体験ができるという。頭の中のイメージを、絵を描くように再現できるだろうか。
記者(35)が訪ねたのは、「葛城煙火」(大阪市)の奈良工場(奈良県香芝市)。花火作りの工程は(1)火薬づくり(2)回転釜で火薬を球状の「星」に加工(3)星を乾燥(4)半球状の花火玉に星詰め(5)半球を紙製テープで貼り合わせ、クラフト紙で包み「花火玉」に(6)花火玉を乾燥――だ。安全上の理由で、体験できる作業は(4)と(5)のみ。星の種類と大体の分量を選び、他の工程は職人に委ねる。せっかくなので助言は最小限にしてもらう。
星を放射線状に飛ばすため、花火玉の中央に「割薬」と呼ばれる火薬を配置する。断面を上から見た形状が「開花」の形。ハート柄ならば星もハート状に配置する。花火大会の目玉となるような10号玉(直径30センチ)だと、高さ300メートルまで上昇し、直径280メートルの大輪の花が咲く。今回作るのは2号玉(同5.6センチ)より小ぶりの直径3センチだ。
まずは星選び。直径4.5ミリほどの黒い玉が、青や紫など鮮やかな光に変わる。約20種類から「和火」という黄色に発色する星を選ぶ。色とりどりなのはきれいだが、花火玉のサイズも考え、シンプルに1種類に絞ることにする。
記者が花火作りをお願いした製造部課長の浜辺真人さんによると、花火作りは今も全工程がほぼ手作業。「コンビニエンスストアで売っているような花火セットでも、職人が一本一本手で火薬を詰めています」というから驚きだ。
なるべく大きい花火になるよう星をいっぱいに詰めてもらう。今回のサイズだと約5.5~6グラムが上限。粉状の割薬をまぶし、テープとクラフト紙で留めて完成だ。
難しいのは割薬の量。「3センチ玉は1.5グラムまで」など上限の規制があるが、少なすぎると花火も小さくなってしまう。目分量で5分ほどで作業を終えた浜辺さんは「素早く安全に最適量を入れるのが腕の見せどころ」と胸を張る。
花火玉自体は30分ほどの時間で作製できた。暗くなる午後8時すぎまで待ち、点火。「ポン」という音と、黄色い炎が15メートルほど上がる。一瞬周辺を明るくしたが、程なく星くずのように散った。「上空で開花」というより「火柱が上がった」に近い。
十分きれいだと思ったが、職人製の花火を見て考えはすぐに変わった。一筋の光が高さ20メートルほどまで上がると、火の玉がパッと花開き、バチバチという音が響く。さらに小さな火の玉がいくつも飛び出し、キラキラと輝きながら地面に降り注ぐ。思わず歓声を上げた。高さも迫力も段違い。これぞ打ち上げ花火だ。
「秘訣は花火玉の包み方」(古賀章広社長)。厚さ約0.5ミリのクラフト紙を記者製は1枚巻いただけだったが、本来は3枚重ねるらしい。花火玉の内部を火から守り、高い位置まで「開花」を遅らせられるというわけだ。
職人製は同社オリジナルの「火希」。花火玉のサイズと使用した星は記者製と同じだが、音をたてて火の玉を散らす「菊花」という星を少しだけ加えたそうだ。わずかな手間で出来が全く違うものだ。
市販の花火の開発期間は2年ほど。火薬の分量や配置が固まれば再現は難しくないが「最初にイメージした炎の大きさや色が変わるタイミングを表現するまでが大変」(古賀社長)。レシピ通りに作ればおいしい料理はできるが、レシピを生み出すのは難しいのと同じ理屈だろうか。
打ち上げ花火以外にも、線香花火などを作れる体験教室は全国で催されている。葛城煙火は時期や作製量によって変わるが、5千~6千円で受け付けている。子供の好奇心を満たすのはもちろん、大人も童心に帰り楽しめそうだ。
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夏の風物詩も技術革新
今でも工程の大半が手作業の花火。かつては点火も職人が担っていたが、現在はコンピューター制御が主流だ。花火大会に求められる演出効果が高まっていることも背景にある。100分の1秒の単位で点火のタイミングを設定可能で、同時に打ち上げられる本数も飛躍的に増えた。
毎年8月に秋田県で行われる「全国花火競技大会」は全国の花火職人が腕を競う。近年は音楽と花火を組み合わせた創作花火が人気だ。複数の花火の開くタイミングと音楽の盛り上がる部分をシンクロさせ、観客のため息を誘う。
色とりどりの火薬でドラゴンやバラの花を巨大パネルに表現したモザイクアート花火も登場。風物詩にも技術革新が進む。
(宇都宮想)
[NIKKEIプラス1 2019年6月22日付]
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