認知症介護の会話術 「ご飯まだ?」→「今から作る」

2019/6/19付

認知症専門医でアルツクリニック東京の新井平伊院長は認知症の介護と子育てとの違いに例える。「子育ては子供が失敗をしたときに注意すれば経験として上塗りされるが、認知症の人は上塗りができないから意味がない」(新井院長)

しかも、認知症の人は記憶力は低下しているが、抱いた感情は強く残ってしまうといわれる。「また無視された」「拒否された」という感情は、あきらめや意欲低下を招きかねない。「認知症の人が言うことに寄り添う、歩み寄ることが大切」(右馬埜さん)だ。

高室代表は「認知症の人が言うことに過敏に反応するのをやめ、さりげなく調子を合わせる」のを勧める。食事の催促のケースでは「これから作るからなどと答えてあげればいい」(右馬埜さん)。実際に作る必要はない。「それなら待っていよう」と心を落ち着かせるのが肝心だ。「説得ではなく納得してもらうことがカギ」(同)だ。

認知症の人とのコミュニケーションでは、「スピーチロック」といわれる言葉で身体的・精神的な行動を抑制することにも注意が必要だ。介護をしていると何気なく使ってしまう「ちょっと、待ってね」や「座ってて」などの言葉が、認知症の人には否定的に受け止められる場合がある。

軽度の認知症であれば、本人がやろうとしていることを先回りするのもやめた方がいい。家族は心配のあまり必要以上に世話をやいてしまいがちだが、病気で自信を失っている本人は世話を素直に受け取れないことがある。危険な事態にならない限りは「本人の頑張りを尊重する」(新井院長)ことが大切だ。

認知症の介護では理不尽な怒りを感じてしまう場合もあるだろう。介護する人に余裕がなくイライラしているときは、焦りを抑えられずに相手にぶつけてしまう可能性がある。否定されたという記憶は残りやすいので配慮が必要だ。

対応策として、高室代表は「自分が腹を立てていると思ったら、いったんその場を離れる」ことを勧める。「お手洗いに行くとか、水を飲んでくるなどと告げ、時間を置いてもどってくればお互いに落ち着いて話せるようになる」(高室代表)という。

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元気なうち 好み聞いておく

日本の65歳以上の認知症の人の数は、2012年の462万人から25年には700万人に増加すると予想されている。家族などが認知症になったときコミュニケーションが取れるように、早いうちから準備しておくことが肝心だ。

ケアタウン総合研究所の高室代表が勧めるのは「親が元気なうちに、好きな食べ物やテレビ番組、楽しかったことなどを一通り聞いておくこと」だ。「怒りが収まらない認知症の人に、大好きなコーヒーをいれてあげるとニコッとする」(専門相談員の右馬埜さん)など、親の好みを知っていると、不安にかられる心を静めるための対応がしやすくなるという。

介護士などプロのコミュニケーションスキルも役に立つ。高室代表は「デイサービス施設を見学するなどして、認知症の人との接し方ややり取りを学ぶといい」と話す。

(大橋正也)

[日本経済新聞夕刊2019年6月19日付]