条文よりも異文化体験 国際問題の背景つかむ人材育成
明治学院大グローバル法学科
明治学院大学は2018年、半年間の海外留学を必修とする「グローバル法学科」を開設した。国ごとに異なる法律の条文だけでなく、法制度の背景にある文化や生活習慣の違いについて理解を深め、国際的な紛争や摩擦を法的に解決できる人材の育成を目指す。
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差別はなくせるだろうか、なくすにはどうすればいいだろうか――。「国際人権法」の授業の冒頭、東沢靖教授が学生約20人に問い掛け、4人一組のグループで議論をぶつけ合う。
「罰則を設け逮捕する」「教育の拡充と見直し」「生活弱者への資金支援の積み増し」。各グループが議論を踏まえ黒板に書き込んだ「解決策」を基に、さらに議論を交わす。
司会役の東沢教授は正解か不正解を判断しない。差別自体は世界共通の問題だが「背景や原因は国や文化により異なるという問題意識を持つことが重要」(東沢教授)だからだ。
同学科2年、礒元メリッサ瑠奈さん(19)のグループは「アファーマティブ・アクション」の導入を提案した。社会的弱者や少数派を優遇する積極的差別是正措置だ。「欧米に比べ日本ではなじみが薄い。なぜだろうね」。東沢教授の問いに、礒元さんが「弱者優遇のマイナス印象が強いと思う」と応じる。
国際非政府組織(NGO)で海外の人権問題の解決にかかわる仕事を目指す礒元さん。「民族や人種、出自による差別や社会格差をなくすには、法律だけでなく文化も理解しなければ」と考えている。
現代はヒト・モノ・カネが当たり前に国境を越えて行き交う。インターネットなどIT(情報技術)の進歩が垣根をさらに低くした。異なる文化や風習、ルール、習慣に従い暮らしている人が出会うことで「矛盾や対立、衝突も起こりやすくなっている」(学科主任の高橋文彦教授)。
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同学科は2年春までに、日本の法律の知識の習得はもちろん、それを英語で説明できるレベルまで引き上げるのが目標だ。日本の文化や、海外から見た日本の姿を学ぶ授業も必修科目。高橋教授は「自国のことを知らなければ海外の人と話もできない」と強調する。
海外留学も必修だ。2年秋ごろから、米、英、豪、カナダ、アイルランドの5カ国6校で約6カ月の間、英語、法律、文化を学ぶ。現地の生活を通じ、国ごとに違う法律を、背景にある異文化ごと学ぶ。
受け入れ先となる複数の大学が、移民や人種問題など各国が抱える問題を取り上げる留学生向けのクラスを新設してくれるという。「異文化を理解し、どのタイミングで、どう折り合いをつけるか交渉術を体験してもらう」(高橋教授)
グローバル法学科1期生約70人の一人、石田射月さん(19)は秋のカナダ留学を心待ちにする。「法律を専門的に学びたいが、海外での仕事には語学を磨いた方がいいのでは」と疑問を抱えていた。「両方を高いレベルで学び、世界で勝負できる強み、可能性を見つけたい」と意気込む。
3、4年時には、企業の国際交渉や、海外の法律、政治、文化、宗教を英語で学ぶ授業が待ち受ける。国際的に活動する企業やNPO、法律相談センターでのインターンシップなど実践に近い環境も重視する。
「法はあくまで問題解決の道具にすぎない。相手を知ることが対話の糸口につながる」と高橋教授は話す。初の卒業生を出すのは2年後になる。法曹関係、国家公務員、国連職員、国際NGO、メディア、航空業界など多岐にわたる分野で、国境を越えていく教え子たちの姿に思いをはせる。
(佐々木聖)
[日本経済新聞朝刊2019年6月19日付]
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