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まろやかなコクと酸味、香り堪能 鹿児島の黒酢料理

2019/6/13付 日本経済新聞 夕刊

レストラン壺畑の酢豚。黒酢をより感じたい人のために各テーブルに黒酢を置いている

鹿児島県は「黒」にちなんだ食材が豊富だ。黒毛和牛や黒豚に加えて、焼酎に使われる黒こうじや黒糖などあらゆる分野で黒が顔を出す。黒酢もその一つ。健康ブームの追い風に乗り、飲料消費が拡大したが、黒酢を調味料として使った「黒酢料理」も広がってきた。

鹿児島県霧島市。薩摩半島と大隅半島に囲まれた鹿児島湾(錦江湾)の最奥に位置する福山町周辺が黒酢のふるさとだ。鹿児島湾や桜島を望む斜面には黒酢を発酵・熟成させる黒色の陶器の壺(つぼ)が所狭しと並ぶ壺畑が点在する。その一画にある坂元醸造(鹿児島市)が経営する情報館&レストラン、壺畑の人気メニューが黒酢を使った酢豚やサンラータン麺だ。

桷志田の黒酢の酢飯を使ったにぎりずし

揚げた豚肉と野菜を黒酢入りのたれに一気に絡ませ、最後の仕上げに黒酢を加えて香りと風味を残すのが壺畑の酢豚の調理法。口に入れると思ったよりも酸味はなく、普通の酢豚よりも甘みやうまみを感じる。

通常の酢に比べて米由来のアミノ酸や有機酸が多く含まれるのが黒酢の特徴。店長の山田賢吾さんは「酸っぱさを強調するのではなく、黒酢由来のコクやまろやかさを味わってもらいたい」と話す。飲料用として火が付いた黒酢だが、黒酢を使った料理を出すことで調味料としても食卓に広めたい考えだ。

福山黒酢(霧島市)が経営するレストラン、桷志田(かくいだ)は「コーヒー以外のメニューには全て黒酢を使っている」(レストラン事業部マネージャーの児島一樹さん)。例えば、ブリの握りずしは黒酢のもろみを食べさせたブリを使い、黒酢を使った酢飯で握ったもの。うっすらと黒みがついた酢飯は甘みの中にほのかな酸味を感じる味わいで、食べる際のしょうゆにも黒酢が入っており、黒酢尽くしの一品だ。

霧島市内にあるホテル京セラでも、地元の特産品を使おうと十数年前から黒酢を使ったメニューを用意。館内のレストラン、デルソーレでは黒酢料理と銘打ち、肉料理と魚料理のランチを週替わりで交互に提供している。

レストラン統括部支配人兼料理長の瀬戸護さんが話す調理のポイントは「風味が強い分、淡泊な食材と合わせること」。白身魚のポワレに使う黒酢ベースのソースは「火を入れて酸味を飛ばし、風味を生かす」という。料理からほのかに立ち上る黒酢の香りを感じつつ味わう。

鹿児島市内の飲食店で黒酢を使ったメニューを見かけることも増えてきた。「飲む」だけではなく、「食べる」へその領域は広がってきた。

<マメ知識>米の集積地として栄える
黒酢は壺に仕込んだ混ぜ麹(こうじ)と米、水が糖化、アルコール発酵、酢酸発酵をすることで造られる。現在の霧島市福山町は、製法が伝わったとされる200年以上前、薩摩藩の米の集積地として栄えた場所で、原料となる米が豊富に確保できた。姶良(あいら)カルデラに蓄えられた豊富な地下水と南向きの斜面による温暖な気候という条件もそろい、米酢造りが盛んになった。薩摩藩が密貿易で輸出していた寒天造りの原料に使われたという話もあり、歴史に思いをはせて味わうのも一興だ。

(鹿児島支局長 久保田泰司)

[日本経済新聞夕刊2019年6月13日付]

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