歯周病は細菌で予防 バクテリアの摂取で悪玉菌抑える
歯磨き・歯科治療と併せて
気付かないうちに症状が進むことが多い歯周病。歯のトラブルにとどまらず、糖尿病など様々な病気のリスクが高まることが知られている。日々の歯磨きや歯科でのチェックに加え、歯周病菌を抑える口内細菌を摂取する「バクテリアセラピー」への関心が高まっている。進行した歯周病を改善する効果もあるという。
歯周病は歯周病菌の感染で起こる炎症性の病気だ。初期の症状は「歯肉炎」。歯と歯肉の境目で歯周病菌が繁殖し、歯肉の周辺がはれる。出血を伴うこともあるが、この段階では病気に気付かない人も多い。
進行すると歯と歯肉の境目の「歯周ポケット」が深くなり、歯を支える土台である歯槽骨が溶ける「歯周炎」になる。歯槽骨の溶解が進むと歯がグラグラするようになる。
歯周病の予防や症状を改善するのに近年注目されているのが、有用な細菌をサプリメントなどで摂取するバクテリアセラピーだ。
腸内細菌と健康の関係が注目されているが、口内にも数百種類の細菌がすみ着いている。歯周病菌や虫歯菌に代表される「悪玉菌」と、その他の常在菌が競争・共存して口内フローラと呼ばれる細菌叢(そう)を形成している。
口内フローラと歯の病気の関係を調査している歯科医の坂本紗有見氏によると、乳酸菌の中に悪玉菌を抑える効果を持つものが確認されている。海外で長年研究されてきた「ロイテリ菌」と、広島大学の二川浩樹教授が発見した「L8020乳酸菌」が代表で、これらの乳酸菌を含むヨーグルトやサプリメントなどが製品化されている。
ロイテリ菌の場合、唾液などの働きで活性化され、中性脂肪の分解物を餌にしてロイテリンという抗菌物質が作られる。この抗菌物質は他の常在菌には影響を与えず、歯周病菌を抑制することが分かっている。
欧州での臨床試験では、約20人の歯周病患者を2グループに分け、ロイテリ菌を含むタブレットとプラセボ(偽薬)を約1カ月間摂取して比較した。ロイテリ菌を摂取したグループは、出血を起こした歯の比率が47%改善した。
また歯周病菌が存在する歯垢(しこう)の存在する歯も減った。歯周病の程度を示す歯周ポケットの深さも改善していた。プラセボのグループでは目立った変化は確認できなかった。
歯周病菌と並ぶ口内の悪玉菌は、虫歯の原因となるミュータンス菌をはじめとする虫歯菌だ。虫歯菌についてもバクテリアセラピーの試験が国内で行われており、ロイテリ菌などで有意な効果が確認されている。
歯科医で日本歯周病学会の若林健史理事は口内フローラを良好に保つための生活習慣の重要性を指摘する。「口内の乾燥を避けるのが大事。喫煙は口内を薫製にするようなもので歯茎から水分を奪う。唾液の質を保つためにはストレスをためないことも重要だ」と話す。
歯周病対策や虫歯予防で最も重要なのは、毎日の口内ケアであることは言うまでもない。歯磨きに加え、デンタルフロスや歯間ブラシを使って歯垢がたまらないよう丁寧にケアしたい。また、歯周病は進行に気が付かないことが多いので、定期的に歯科を受診して、歯周病菌の温床となる歯石を取ることも心がける。
坂本氏は「セルフケアと歯科医によるケア、そしてバクテリアセラピーの3つを併用することで、歯周病や虫歯を防ぐ効果は大きく高まる」と話す。
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糖尿病や動脈硬化 別の疾病リスクも
歯周病に伴ってリスクが高まる各種の全身疾患のことを、日本歯周病学会では「ペリオドンタルシンドローム(歯周病関連全身疾患症候群)」と呼んでいる。歯周病との関連が最も密接とされるのが糖尿病。歯周病が重症化すると血糖値をコントロールする機能が低下する。
糖尿病のほか、歯周病菌が直接発症にかかわる誤嚥(ごえん)性肺炎や、歯周病菌が血管に付着することで動脈硬化を起こし、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすケースがある。関節リウマチや早産・低体重出産も歯周病との関連が指摘されている。
歯周病とアルツハイマー病との関係も近年注目されている。アルツハイマー病患者54人の脳の96%から歯周病菌が作る毒素が発見されたという米国の研究が1月に発表された。
同学会の若林健史理事は「糖尿病患者の治療の際に歯周病ケアを同時に行うなど内科と歯科が連携するケースが増えてきた」という。
(編集委員 吉川和輝)
[日本経済新聞夕刊2019年6月12日付]
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