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ギャンブル・酒・薬 「過小評価」で陥る依存症の泥沼 精神科医 松本俊彦

2019/6/8付 日本経済新聞 朝刊

薬物依存症者が互いに自分の話をして立ち直りのきっかけをつかむ=イラスト・よしおか じゅんいち

近年、有名芸能人の薬物事件が起こると報道が過熱しがちだ。ワイドショーは連日その話題で持ちきりとなり、リンチさながらの非難の嵐に晒(さら)される。そのような残忍な番組が許されているのは、「依存症」を病気の観点から考える人が少なく、たとえ考えたとしても、多くの人にとっては他人事(ひとごと)だからではないだろうか。

だが本当に他人事なのか。日々ニュースを眺めていれば、芸能人の暴行、政治家の暴言、アスリートの窃盗、公務員の公金横領のように、背後にアルコールや薬物、ギャンブルなどの依存症が疑われるケースは枚挙にいとまがない。親族の集まりや同窓会で、「もしかして……」と気がかりな噂を耳にする経験は、誰しも一度や二度あるはずだ。

■正しい知識必要

薬物事件を芸能ニュースとして消費する時代は、もう終わりにしよう。いま必要なのは、正しい知識と建設的な議論だ。信濃毎日新聞取材班著『依存症からの脱出』(海鳴社・2018年)は、依存症の諸相と回復支援の課題を浮き彫りにする。アルコール、薬物、ギャンブルなどの依存症にかかわる様々な立場の人の声を丁寧に拾った。依存症とは孤立の病であり、依存症からの回復とは人とのつながりを取り戻すことであるという視点は、今後社会で共有すべき新しい依存症認識だ。

薬物依存症者の相互支援によって回復を目指すリハビリ施設として日本各地にダルクがある。互いに自分の話をすることなどを通じて、立ち直るきっかけをつかむのだ。その施設長たちが、思い思いの支援実践や地域共生を熱く語るのがダルク編『ダルク 回復する依存者たち』(明石書店・18年)である。ひとりひとりの施設長が重量感のある個性を放っていて、回復の具現者といえるだろう。依存症からの回復とは薬物を使う前の自分に戻ることではなく、新たな自分に成長することなのだと痛感させられる。

アルコール、薬物、ギャンブルの他にも依存症はある。斉藤章佳著『万引き依存症』(イースト・プレス・18年)が紹介するのは万引き(窃盗)で、薬物と同様、刑罰の効果が乏しいとみられる犯罪である。特に女性では、貧困は犯行の理由ではない。むしろ多くの者が、「盗む」行為に対する依存症(窃盗癖)に陥っている現実があり、治療や支援こそが必要だ。困った人は実は困っている人ということが明らかになる。

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