エンタメ!

映画セレクション

映画『ハーツ・ビート・ラウド』生き方認め合う父と娘

2019/6/7付 日本経済新聞 夕刊

親子の愛情や絆がどんなに強くても、子供はいつか親離れして自立していく。それは国や時代が違っても変わることはない。そんな境遇にあるアメリカの父娘の姿を、2人で作った音楽をモチーフに、お互いの生き方と共に日常生活からしなやかに描き出している。

東京・渋谷のヒューマントラスト シネマ渋谷ほかで公開(C)2018 Hearts Beat Loud LLC

ニューヨークのブルックリンに暮らす中年のフランク(ニック・オファーマン)と高校生の娘のサム(カーシー・クレモンズ)。フランクはかつてミュージシャンだったが、妻を亡くして幼い娘を育てるためレコード店を経営。一方、サムは卒業後にロサンジェルスの医大への進学を決める。

ある夜、フランクは勉強中のサムを誘ってセッションし、サムの書いた歌詞を歌って録音。娘の才能に興奮したフランクが、サムに黙って音楽ストリーミングサービスにアップロードしたところ、何と2人の曲が人気を集めるようになる。

「花嫁の父」という言葉があるように、男親には娘の存在は特別らしい。サムと一緒にバンドを組んで演奏することが夢だったフランクは、赤字経営のレコード店を廃業することも忘れて心を躍らせる。男親の心情に加えて、音楽一途(いちず)に生きてきたフランクの姿は何ともいじらしい。

そんな父親の姿に比してサムの感情は複雑だ。大学進学への勉強、恋人のガールフレンドとの関係、外の世界に対する好奇心など、人生の多感な時期に出会う様々な経験を通して少女から大人へと成長しながら自立心を育んでいる。

ラストのレコード店で開く2人のライブ演奏が素晴らしい。感情のもつれが次第にとけて、親子の強い絆の中で、お互いの生き方を認め合って尊重する姿が音楽と共に浮かび上がってきて心に響く。

ブレット・ヘイリー監督は、父娘の感情と日常の姿を衒(てら)いのない素直な映像で巧みに描き出している。1時間37分。

★★★★

(映画評論家 村山匡一郎)

[日本経済新聞夕刊2019年6月7日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…

エンタメ! 新着記事

ALL CHANNEL