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自宅で穏やかな最期を みとりの人材育成へ各地で講座

2019/6/3付 日本経済新聞 朝刊

「『そんなん大丈夫やで』とかよく言っていたが、その人にとって大丈夫なはずがなかった。『気持ちは分かる』と言うにも、第三者に気持ちが分かるはずがない。解決できない苦しみを抱えた人を前に、どう接していいか分からなくなっていた」と振り返る。女性は数カ月後に亡くなった。津野さんは「本当に苦しんでいる人の役に立っていない」と思うようになり、仕事に自信を持てなくなった。

迷いを小沢医師に打ち明けると、「私は医師ですが、(病気を)治せなくても患者のもとに行くのですよ」と返答され、はっとした。講座で伝えているケアの本質は「無力でもよい」「何もできない自分を受け入れる」。その意味が初めて分かった気がした。

津野さんが勤める事業所では50人ほどの従業員で100人以上の患者を担当する。多くは高齢者で、末期がんなどでみとりをする機会も少なくない。津野さんは「『あなたの苦しみを聞きたい。だから教えてほしい』というスタンスで患者と接し、相手にも『この人になら自分の苦しみを言いたい』という対象になることが重要」と話す。

講座では座学や、受講者同士で様々な状況を想定したロールプレーにも取り組む(18年10月、大阪市)

ただ協会の講座は金銭面から出席に後ろ向きな人もいる。受講中は職場を離れる必要があり、人手不足が深刻な介護職などの現場では参加できない事情もある。

津野さんは講座に参加できない人やさらに学びたい人をくみ上げるため、17年から大阪市周辺で無料講座に取り組んでいる。協会の講座に近い内容を少人数に教え、ときには実践的なロールプレーも交える。

津野さんは「ヘルパーは患者と接する時間が医師や看護師などと比べて多く、在宅医療やみとりにおける役割は大きい。意識の底上げに取り組みたい」と強調する。小沢医師も「講座で学んだ人にさらに広げてもらい、みとりの現場が変わっていってほしい」と期待している。

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■体制整備にも遅れ

高齢化が急速に進むなか、現場の人手不足などで在宅医療の体制整備は遅れている。在宅医療の中核を担う在宅療養支援病院や在宅療養支援診療所などがない自治体は2015年度末時点で全国の4分の1にあたる約450市町村。地方部では採算が取りにくく、北海道や東北に多い。

内閣府の12年度の調査によると、「最期を迎えたい場所」として「自宅」を選んだ人が約5割を占めた。高齢化が進めば医療機関のベッド数が不足するため、受け皿として国は診療報酬を手厚くするなどして在宅医療の環境整備を後押ししている。だが在宅で終末期に対応する医療機関数は全体の5%程度のみだ。

体制整備とともに、現場で実際に患者のケアなどの実務を担う人材育成というソフト面の充実も求められている。小沢医師は「生産年齢人口が減少を続け、介護を担う世代が減る危機的な状況になる。穏やかで尊厳ある最期を実現するため、苦しみを背負う人でも安心して暮らせる地域づくり、社会づくりが必要だ」と強調している。

(石原潤)

[日本経済新聞朝刊2019年6月3日付]

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