少女まんが館にカフェ・雑貨店 いまどきゲストハウス
若者や外国人のバックパッカーが泊まるイメージだったゲストハウス。最近は家族連れや女性の姿も目立つ。カフェや雑貨店を併設し、地域の交流拠点にもなり始めた。
「きょうも仕事前のコーヒー飲みに来たよ」「どうぞ。この前はイベント手伝ってくれてありがとう」。大阪市福島区、飲食店が軒を連ねる路地の一角にたたずむゲストハウス「由苑」。築100年超の元料亭を改装した。2階が宿泊スペースで、1階でカフェやカレー屋、雑貨店を営業する。スタッフと談笑する男性(34)は近くの居酒屋で働き、カフェに通う常連だ。
由苑ではスタッフや宿泊客だけでなく、店に通う地元客らも巻き込んで交流が深まる。突然のたこ焼きパーティーや花見、令和改元の時は書き初め。「皆で盛り上がったのが忘れられなくて」との理由でリピーターになる客も。
客層も広がる。マネジャーの徳永芳郎さんは「4人で泊まれる個室をつかう家族連れもいる。シニアや女性の一人旅も増え、偶然の出会いを楽しんでいるようだ」と話す。周囲との交流や手ごろな価格は就職活動中の学生にも心強い。福岡から来た専門学校生の堀絢花さん(19)はゲストハウス初体験だが「慣れない面接で緊張しっぱなしだけど、皆に相談に乗ってもらい少し気分がほぐれた」。
ゲストハウスの明確な定義は難しいが、素泊まりで1人1泊2千~3千円台と割安な分、相部屋でトイレやシャワーは共有、食事は自前といったところが多かった。最近は平均3千~4千円台とやや上昇傾向だが、個室が増え、内装はおしゃれに。カフェ併設などの工夫で泊まらなくても立ち寄れる場所も増えた。
「ゲストハウスガイド100」の著者で紹介サイトも運営する前田有佳利さんによると、施設数は全国で1000カ所を超え、ここ10年で3~4倍に。「リーマン・ショックや東日本大震災で価値観が変わり、地域や人との交流、居心地の良さに注目する人が増えた」と前田さん。SNS(交流サイト)で情報を共有し、人同士が結び付きやすくなったのも大きいようだ。
背景にあるのが地域の魅力を発信する拠点にしたいと走り回るオーナーの存在だ。裕福な商家の面影を伝える「うだつ」の街並みが印象的な徳島県美馬市。「のどけや」はオーナーの柴田義帆さんが「地方にも人が集まる場所をつくりたい」と始めた。
マンガ家の妻の出身地が徳島だった縁で大阪から移ってきた。自身もミュージシャンでライブハウス経営に携わっていた。ユニークな経歴のオーナー夫婦に文化の薫り豊かな街の魅力が相まって、やがてクリエーターが集う場に。周辺には古民家カフェやコワーキングスペースもできた。
街の魅力を発信するアプリの開発、空き家や空きスペースを定額で使えるシェアサービスと新たな取り組みも動き出す。パソナグループで働く加藤遼さん(35)も「旅と音楽が好きで柴田さんと意気投合。毎月のように東京から通っていて」。柴田さんのビジネスやイベントにも関わる。
静岡県熱海市の「MARUYA」はカフェ・バーを併設、地元の常連と宿泊客を結び付ける。週末はスタッフが案内しながらの街歩き。金曜夜は「グルメの日」と題した地元食材を味わうイベント。オーナーの市来広一郎さんは「熱海をもうひとつの居場所と感じてもらえれば」と話す。
岡山県西粟倉村で温泉やカフェ・レストラン付きの「あわくら温泉元湯」を営む井筒耕平さんも「地域とふれあう入り口、玄関のような存在でいたい」と考える。ゲストハウスが新たなコミュニティーを生み出しつつある。
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定額制サービスも登場
施設数の増加を背景に、ゲストハウスの差別化や多様化も進んでいる。佐賀県唐津市の「少女まんが館Saga」は私設図書館との一体型で、宿泊客は蔵書1600冊が読み放題。札幌市の「雪結(ゆゆ)」は学童保育を併設する。
東京・浅草橋の「Little Japan」はランチ作りを地元の人に頼むなど地域との交流も重視。国内外の提携先を月1万5千円から泊まり歩ける定額制サービスも始めた。近所の旅行アプリ開発会社に勤める山本知樹さん(30)は同サービスを利用するヘビーユーザー。「会社まで徒歩15分は魅力的。滞在する人との交流は仕事にも役立つ」という。
(河野俊)
[NIKKEIプラス1 2019年6月1日付]
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