熱中症で搬送目立つ高齢者 高血圧・糖尿病でリスク増
水分量、医師と相談 体重測定で脱水防ぐ
日本各地が記録的な猛暑に見舞われ、熱中症のリスクが高まっている。特に注意が必要なのが高齢者だ。高血圧や糖尿病などの慢性疾患を抱えた高齢者は「熱中症弱者」ともいわれる。毎日、体重や体温、血圧などを測って体調を整えたり、持病や自分の好みに合わせた水分補給の仕方を見つけたりすることが重要だ。
「ちょっと部屋の中が暑いからエアコンをつけましょう」。4月中旬、介護福祉士の竹本綾さん(45、仮名)は90歳の女性が一人暮らしをしている都内のマンションを訪れた。女性は転倒による骨折で、毎週2回、洗濯や入浴などで介護サービスを利用する。この日の東京の最高気温は25度を超え、室内の温度計は29度。竹本さんはまず最初に室温をチェックした。
実は女性は高血圧の持病があり、普段から減塩食をとっている。夏場は汗が出るため、体内の塩分濃度が下がりやすく、体温調節がうまくいかずに熱中症になるリスクが高くなる。さらに降圧剤の中には利尿作用を促すものもあり「夏場の介護では何よりも熱中症が心配だ」(竹本さん)。
在宅介護では、高齢者の体調をヘルパーや看護師などが記録して共有する。熱中症のリスクが高い高齢者が目安の水分量を取れているのか確認するのが大事な注意点だ。
熱中症は暑い環境で体内の水分などのバランスが崩れることで、脱水と体温上昇によって起こる目まいや頭痛、意識障害などの症状を指す。屋外で運動や肉体労働をして起こる「労作性」と、屋内で発症する「非労作性(古典的)」に分けられ、後者の患者層は主に高齢者だ。
2018年は熱中症で9万5千人が救急搬送され、うち半数は65歳以上だった。老化により体内水分量が減って汗をかきにくく、基礎代謝が落ちて暑さに鈍感になることが一因だ。
高血圧や糖尿病を抱える人は特に注意が必要だ。高血圧患者は塩分量の制限を受けているが、汗をかいて塩分濃度が下がりすぎると体温調節がうまくいかなくなる。体内に熱がこもると、熱中症を引き起こしてしまう。糖尿病患者が使う薬の中には利尿作用を促すものもある。脱水症状を招くリスクが高まる。
熱中症をどうやって予防するのか。まず暑い環境を避けることが重要だ。室内はエアコンをつけるなど涼しい環境を維持し、暑いときに外に出るのを控えるだけでリスクの低減につながる。天気予報や暑さ指数(WBGT)を参考に、外出の予定を立てるといい。
慢性的な疾患を持つ人について、帝京大学医学部の三宅康史教授は「夏の間の水分・塩分量を主治医と相談して調整するとよい」と説明する。体重や体温、血圧などを毎朝測り、体重が減っていたら脱水の可能性があるため「普段より多く水分を取るなどこまめな体調管理も予防につながる」(三宅教授)という。
ニチイ学館の小田喜志子・介護事業本部教育研修課長代理は「卵豆腐や野菜スープなど、食事から水分を取れるように工夫することも有効」と指摘する。
夏本番を控え、事前の備えも重要だ。通気性の良い衣服に衣替えし、エアコンが冷房モードに切り替えてあるかをチェックする。扇風機と併用し、快適で安全な設定温度を見つけておくことも役に立つ。
あいさつや買い物を通じて地域住民で見守ることも大切だ。高齢者のみの世帯では、熱中症になっても周囲が気づきにくい。熱中症対策で最も効果が高いのは、地域の目で高齢者を支えていくことかもしれない。
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異変感じたら すぐ救急車を
温度や湿度が高い日の体調不良は熱中症を疑おう。目まいや吐き気を訴えたり、具合の悪そうな人を見かけたりした際は声をかけて意識があるかを確認し、「変だと思えば迷わずに救急車を呼んでほしい」(三宅教授)。意識がしっかりしている場合は涼しい場所へ移し、服を緩めて体を冷やす。
自分で水分補給できるかも重要なポイントだ。自力で飲めなければ、症状が軽そうでも医療機関を受診しよう。水のペットボトルは軟らかいため、脇に挟んで体温を下げる効果も期待できる。コンビニエンスストアなどで売っているロックアイスを袋ごと布で包み、首もとや脇、脚の付け根などに当てるのも効果的だ。
体調が回復するまで患者を見守ることも重要だ。意識があるからと、日陰で休ませている間に体調が急変することもある。救急車を呼んだ場合はもちろん、回復傾向でも患者のそばで様子を見守ることが大切だ。
(岡田知)
[日本経済新聞夕刊2019年5月29日付]
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