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池上彰の大岡山通信

社会に出たら大切なこと 「信頼関係が味方をつくる」 池上彰の大岡山通信 若者たちへ

2019/5/27付 日本経済新聞 朝刊

現代は「人生100年時代」といわれます。自らの働き方ややりがいを考え、転職する道も選択肢のひとつだと思います。あなた自身の人生だからこそ、出発点を大事に、考え抜いて次の一歩を選んでほしいのです。

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働き始めたら、新聞やテレビが伝える日々のニュースには敏感でいてください。国際情勢はいずれ日本の政治や経済にも影響が及んできます。会社の取引やプロジェクトにも大きく関わることでしょう。時代の行方を読み解く習慣を身につけておくことが大切です。

私は毎日、多くの新聞を読む一方、インターネットを活用して世界の情報に触れるようにしています。関心のあるテーマを定点観測する過程で、新しい動きを収集したり、深掘りしたりしながら、情報の更新と蓄積を心がけています。毎日の積み重ねが力になります。

大事なポイントは情報と情報を組み合わせ、そこからどんな変化を読み解けるかという手法にあると思います。膨大な情報から、一歩先の新たな変化をどれだけイメージできるか、シナリオ構築能力が問われます。是非、試してみてください。

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配属先が地方になって、少し残念な気分になっている新人もいるかもしれません。でも、視点を変えれば、それは仕事を知る大きなチャンスです。私自身が体験したことでもあるのです。

これまでもコラムや講演で紹介しましたが、私は大学卒業後、島根県と広島県で記者生活を送りました。もともと、地方勤務を希望していたわけですが、中国地方での記者生活がその後の東京の社会部での取材活動に大きく役立ちました。

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たとえば島根の松江放送局では、警察、検察、裁判所、市役所、県庁や日銀、農協など幅広く取材できました。東京のように記者の人数が多いわけではないので、政治、経済、社会の基本的な仕組みを学ぶ機会になりました。地方都市をサンプルに、日本の縮図を理解できたと思っています。

広島県の呉通信部にいたときは、事件取材も映像撮影もすべて1人でこなしました。大変な苦労でしたが、カメラマンの仕事をしたことで、映像制作のコツやセンスが磨かれ、いまにつながっていると思います。被爆者の取材もしたことで、いまも8月6日に広島の平和記念公園から中継する仕事に結実しました。

地方勤務は自分の知らない世界を広げ、仕事に必要な力を鍛えるチャンスといえるでしょう。東京を離れることは残念な気持ちになるかもしれませんが、初めて訪れる土地で働けるのはとても貴重な経験なのです。

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地方勤務をすると、東京だけが日本経済を支えているわけではないということも発見できます。世界から注目されるような技術力、アイデアのある有力な中小企業は地方にも多いからです。

近年は大勢の外国人観光客が地方の観光地を訪れています。地元ならではの観光地や食の魅力をテコに、新しいサービスや商品を生み出すことができるかもしれません。

私自身の体験からいえば、「人生には決して無駄な経験などない」と考えています。仕事の担当分野が変わったり、新たな取引先を開拓したり、様々な場面に遭遇するのでしょう。そんなとき、学んだこと、経験したことが将来の糧になってくれるはずです。

残念ながら、そうした人生の経験を、あらかじめマニュアル化することはできません。失敗も貴重な経験値です。

そのうえで日進月歩の技術革新に注目してください。IT(情報技術)やAI(人工知能)が進化しています。ブームではなく、経済や社会の仕組みをも変える大変革期が訪れているのです。

たとえば平成の時代には、子どもたちもあこがれる新しい職業に「ユーチューバー」が登場しました。間もなく次世代通信規格「5G」による新しいサービスも始まります。

時代の先を読むには、常に情報を捉えるアンテナを張り、感度を高めることが大切です。インターネットがこれだけ普及した時代ですから、大都市と地方都市との格差はほとんどないはずです。

技術革新の大きな波は、人生にも、仕事にも影響を及ぼすでしょう。膨大な情報からどんな意味を見つけ、新たな変化を予測できるかどうか。それはあなた自身にかかっています。大きな変化に備え経験を大事にしてほしいと思います。

[日本経済新聞朝刊2019年5月27日付と6月3日付]

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