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池上彰の大岡山通信

社会に出たら大切なこと 「信頼関係が味方をつくる」 池上彰の大岡山通信 若者たちへ

2019/5/27付 日本経済新聞 朝刊

池上さんは、今春働き始めた若者に「信頼関係は一朝一夕には築けない」と語りかけた

今春、働き始めた若者たちは職場になじんできたころでしょうか。私も記者人生で幾度も挫折や失敗を経験しました。世界は異なりますが、働き続ける上で大切にしたいことに大きな違いはないでしょう。就職活動中を含め、人生の出発点を迎えた若者たちにそんなアドバイスを贈ります。

「会社辞めようかな」。一度や二度、こんな気持ちになった経験はありませんか。先輩に仕事に関して注意され、落ち込んだこともあるかもしれません。私も再三そんな気持ちになりました。

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気になるデータがあります。大学を卒業し、企業で働く若者の約3割が、入社3年目までに辞めてしまうというのです。仕事への適性や人間関係など、いろいろ理由はあるのでしょうが、残念なことです。

時間をかけなければ、見えないこと、わからないことがあります。人生の出発点に立ったばかり。自分自身を知ること、仕事を覚えることに力を注いでほしいのです。

そのためには社内はもちろん、学生時代の友人を含めた社外の人々との交流が大きな支えになります。人間関係を広げるうえで2つの視点をアドバイスします。共通するのは信頼関係です。

ひとつは、仕事で落ち込んでも、翌日には気持ちを切り替える工夫をしましょう。弱気になるのは、あなただけではありません。指摘は冷静に整理し、改善点を考えましょう。仕事への姿勢を積み重ねるなかで社内の信頼が築かれるのです。相談できる先輩や友人を大事にしてください。

もうひとつは、仕事はビジネスパートナーとの信頼関係を築くことから始まるという点です。社外にも、あなたの仕事ぶりを見ている人が必ずいます。そういう人たちを味方につけてください。

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私は若いころ「名刺で仕事をするな」という言葉を知りました。「誰にでも取材できるのはNHKという大きな組織の名刺があるからだ。勘違いするな」と。「認められ、信頼されて会ってもらえる関係を築け」という忠告でした。

その際、気をつけてきたことがあります。社会的に地位のある人物や大企業の経営者などに会うなかで、自分が偉くなったような錯覚に陥らないように注意したことです。「記者は国民の知る権利に貢献すること。自分はちっとも偉くない」

記者の仕事とあなたの仕事とは異なるかもしれません。でも、人との信頼関係を築いていくことで得られる人脈の大切さは同じではないかと考えています。

入社1年目は忙しさに流されそうになったり、同期入社に負けたくないという思いに焦ったりするかもしれません。そんなときほど「なぜこの仕事を選んだのか」と、自らに問いかけてみてください。

私はテレビで個人の意見を求められても、決して「こうだ」という結論は言いません。人々の判断材料になる情報を伝え、視聴者が自ら考えることを手伝うことが私の役割だと考えているからです。それは民主主義にかかわってくる問題だからです。

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