世界をダメにした経済学とは 説得力を欠く「格差論」
貧困・格差の解消は経済学の大きなテーマだ。写真はイメージ=PIXTA
経済学の草創期から現代に至る200年の間に経済学者たちが残した数々の著作の中で、長く読み継がれる本はそれほど多くない。
ノンフィクション作家のT・バトラー=ボードン著『世界の経済学 50の名著』(大間知知子訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン、2018年10月)は、名著と呼ばれる著作のエッセンスを示す入門書。アダム・スミス、ケインズ、シュンペーターらの代表作、ポール・クルーグマン、リチャード・セイラーといったノーベル経済学者の著作、トマ・ピケティ著『21世紀の資本』……。「著者には、本にする以外の方法では語り尽くせない重要な思想があるはずだ」とみるボードン氏は、経済学書を手にとって「資本主義についてもう少し知識を深める」意義を強調する。
同氏によると「過去の経済思想家の著作には人口超過、経済格差、環境の大変動といった陰鬱な将来の警告が次から次へと登場するが、実際には想像したほどひどい事態にはならなかった」。資源の枯渇に疑義を唱えたジュリアン・サイモンらの著作も選んでバランスを取っている。
経済学書から何を学ぶかは読み手次第でもある。銀行・保険グループを率いるビョルン・ヴァフルロース著『世界をダメにした10の経済学』(関美和訳、日本経済新聞出版社、19年4月)では、「自由放任主義」を批判する原則や理論を「邪悪な理論」と位置づけ、現実と照らし合わせて検証している。「格差是正は経済成長につながる」という仮説はその一つで、格差論を主導するジョセフ・スティグリッツ著『世界の99%を貧困にする経済』は「まったく説得力がない」と断じる。
現代経済への処方箋を、過去の偉大な経済学者に尋ねよう――。エコノミストのリンダ・ユー著『アダム・スミスはブレグジットを支持するか?』(久保恵美子訳、早川書房、19年4月)は、「12人の経済学者の個人史をひもといて思考の原点を探り、どんな診断を下すかを導き出している」(編集担当の三村純氏)。例えば、アルフレッド・マーシャルなら「格差縮小を目的とする税制と、それがもたらす労働意欲低下の影響を慎重に比較検討する」。経済学の巨人たちが思索を重ね、解をひねり出した問題の多くは現代に通じている。
(編集委員 前田裕之)