映画『誰もがそれを知っている』家族一人ひとりの真実

イラン出身のアスガー・ファルハディ監督が、舞台をスペインに取り、大家族のなかに潜む秘密と確執をじつにサスペンスフルに描きだした。一瞬たりとも目の離せない完成度と娯楽性を兼ね備えた力作である。

東京・渋谷のBunkamura ル・シネマほかで6月1日公開(C)2018 MEMENTO FILMS PRODUCTION-MORENA FILMS SL-LUCKY RED-FRANCE 3 CINEMA-UNTITLED FILMS A.I.E.

スペインの田舎町にラウラ(ペネロペ・クルス)が帰省する。妹の結婚式に参加するためだ。幼なじみのパコ(ハビエル・バルデム)とも久々に再会する。ラウラとパコが恋仲だったことは町中が知っていた。

結婚式の夜、盛大なパーティが行われるが、激しい雨のなか、停電が起こる。ラウラが2階に上がると、寝室で休んでいるはずの娘イレーネがいない。ラウラの携帯に脅迫のメールが届く。「娘を誘拐した。警察に知らせたら殺す」

ラウラの義兄の友人である元警官が、犯人は身近にいて見張っている、莫大な身代金を用意するふりをしなければ娘は殺されるという。ラウラの夫は裕福な実業家のはずだったが、じつは金に困っていた。ラウラはワイン農園経営者のパコに身代金を出してもらおうとする。そのために、ある秘密を打ち明けた……。

最初はいかにもスペインらしい大家族の再会が見事なリズムで描かれる。スペインの熱い風土と登場人物たちの体臭まで匂ってきそうな描写だ。クルス、ハビエルという実生活で夫婦の主役二人をはじめ、スペイン人の家族模様がくっきりと浮き彫りになる。この監督の力量がよく分かる。

ところが一転、娘の失踪をきっかけに、一見当たり前の家族の日常から、その底に隠れた人間関係の真実が次々に露呈する。家族一人ひとりが抱える異なった事情をあぶり出すファルハディの脚本が本当に巧(うま)い。

黒澤明の『羅生門』を思わせる二重底、三重底のドラマ展開に手に汗握らされる。誰もが自分だけの真実をもっているということが怖いほど伝わってくる。2時間13分。

★★★★

(映画評論家 中条省平)

[日本経済新聞夕刊2019年5月24日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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