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昆布だしにキャベツキムチ 湯の町に根付いた別府冷麺

2019/5/23付 日本経済新聞 夕刊

胡月の麺は白くて太いのが特長。最後までスープを飲み干す人も目立つ人気店だ

関アジ、フグと大分県は一級の食材がそろうが、この地で長く愛される庶民の味が別府冷麺だ。旧満州(現中国東北部)の引き揚げ者がもたらした料理は多くの職人の工夫を引き出し、今も湯の街でその味わいを競っている。

源泉数約2300と他都市を圧倒する別府市。戦禍を免れたこの温泉地には戦後、多くの人が引き揚げてきた。旧満州から来た韓国出身の金光一さん(故人)もその一人。1950年ごろに市中心部の海門寺公園近くに食堂アリランを開いて、当時まだ珍しい冷麺を提供した。

当初は肉系のスープだったが、海の幸に恵まれた別府の味わいを生かそうと昆布などを使った和風だしに変更。「これが受けて大繁盛した」と妻の木村きぬゑさん(74)は振り返る。そば粉を使った細い麺、豚肉チャーシュー、韓国伝来の白菜キムチ。ルーツ店の味は、木村さんが経営する焼肉店の春香苑が受け継いでいる。

各店は麺やスープに腕を競う(大分県別府市の春香苑)

「夫は冷麺の作り方を誰にでも教えました。お店が増えれば冷麺を広く知ってもらえると話していました」と木村さん。そのアリランから独立した男性がほどなく専門店、大陸を開く。こちらはチャーシューに牛肉を使い、キムチの素材をキャベツとした。このひと工夫が別府冷麺の特長として、後に広く定着する。

系譜を継ぐ別府駅近くの大陸ラーメン。褐色のスープを口に含むとキムチの酸味が広がり、やがてツンとした辛さに。キャベツのさっくりした歯応えがもっちりした麺の食感を引き立てている。

別府冷麺には細い麺だけでなく白く太い麺もあり、スープの味も店それぞれだ。開業して約50年の胡月(こげつ)はコシが強く真っ白な太麺。澄んだスープはキャベツキムチと交ぜると鮮やかな朱色に変わる。大陸の職人だった先代が観光地として栄えるようにと「別府冷麺」の呼称を初めて使ったという。

一休の泪ではカボスコショウ(右上)を入れるのが特長。右下は大分名物の鳥天(とりてん)

「製麺所を経営していた祖父母の味を再現した」と語るのは開店4年目の一休の泪(なみだ)の本城美代子さん(45)。牛骨に枕崎のカツオ、羅臼昆布を素材に丁寧にだしを取る。独自の手法で水分を多めに含ませた麺は太めだが固くはない。こちらは白菜キムチ。調味料のカボスコショウを水で溶き、少々注ぐという斬新な発想である。

「別府にいい思い出を作ってもらいたい」と本城さん。ニンニクや塩など素材にこだわり、注文を受けてから麺を打つのは旅行者に人気の六盛など他店も同じだ。客をもてなし、癒やす湯の街の気風。令和の時代になっても、冷麺の味は進化し続けるはずだ。

<マメ知識>市民有志が全国発信
ご当地グルメとして全国に発信しようと、市民有志が2009年に「別府冷麺団」を結成した。団員の門脇邦明さん(46)は「器の底に残る唐辛子と一緒にスープを飲み干せば汗が噴き出す。爽快感たるや温泉そのもの」と語る。まさにその通りである。
10年にはローソンが九州地区限定の季節商品として冷麺団監修の別府冷麺を発売。大分を中心に売り上げは順調で、今年4月にも売り出されている。冷麺を提供する店は市内50店以上だ。「当初の目標は十分達成した」と門脇さんはしみじみ。

(大分支局長 奈良部光則)

[日本経済新聞夕刊2019年5月23日付]

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