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漫画『徳川家康』で学ぶ歴史 事典のように寝床で読む 海洋研究開発機構理事長 平朝彦氏

2019/5/18付 日本経済新聞 朝刊

平朝彦氏と座右の書・愛読書
自然と共に生きる人の凜々(りり)しさに魅力を感じる。
たいら・あさひこ 1946年宮城県生まれ。東北大理卒、米テキサス大博士課程修了。高知大助教授、東大教授などを経て海洋研究開発機構へ。2012年から現職。

宮城県で生まれ育ち、子どもの頃は化石を探して野山を駆け回る少年でした。中高生のときに好きだったのが紀行文です。いまのロシア沿海州の探検記であるアルセーニエフ著『ウスリー紀行』は知らない動物が多く登場し、土地の人との交流に胸が躍りました。

大学で歴史を教えていた父の影響で中国の歴史書や漢詩の解説書もよく読みました。吉川幸次郎・三好達治著『新唐詩選』からは、漢詩のもつ端正な叙情をいまも感じます。

大学生になって小説に目覚めました。きっかけは恋愛をしたことで、人情の機微が気になりはじめました。とくに好きだったのが井上靖著『氷壁』。山に挑む男たちの内に秘めた思いやミステリアスな女性像、ダイナミックな展開に心ときめきました。

厳しい自然のなかに身を置き、自然と対話して自分の立ち位置を決める人々を凜々しいと感じます。自然を克服するのとは違う。共に暮らしながら喜怒哀楽を感じる人々の姿です。

吉村昭の小説の人物にも凜々しさがあります。『高熱隧道(ずいどう)』は黒部のトンネル工事のすさまじさと、それに立ち向かう人たちの姿に感動しました。

ここ数年で読んだうち特筆すべきが小林尚礼著『梅里雪山』。中国雲南省とチベット自治区にまたがる未踏の連山で登山隊が遭難し、著者は遺体捜索に携わります。山に挑んでいた人がいつのまにか山を巡礼する人になる。その心情の変化に胸を打たれます。

広い視野や深い洞察に基づく科学書との出合いが、研究者人生を導いてくれた。

小学3年生ごろ、仙台の書店で母に買ってもらったのが原田三夫著『自然界の驚異』でした。地球の生い立ちや生物の進化、光の性質などを幅広く説き、食い入るように読みました。私の科学の基礎知識は学校ではなく、この本から学んだと言ってもいい。

後になって、著者は大正期に科学雑誌を創刊した啓蒙家だと知りました。中西悟堂著『地球と生物の歴史』もこの頃に読み、科学する心を育んでくれました。終戦直後、皆が書物に飢えていたとき、知識を体系化した素晴らしい本です。

大学時代に出合ったのが竹内均・上田誠也著『地球の科学』です。大陸移動を説くプレートテクトニクス理論により地球科学に革命が起き、それをエキサイティングに解説しています。私の研究者人生を決定づけました。

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