映画『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』
フレデリック・ワイズマン監督の新作ドキュメンタリーだ。米国の組織や施設などを中心に旺盛な映画製作を続ける監督が今回焦点を当てたのはニューヨーク公共図書館。世界最大ともいわれる図書館の裏表をカメラで追いながら、市民生活に密着した実態を描き出している。
ニューヨーク公共図書館は有名な建築様式の本館を入れて、88の地域分館、4つの研究図書館から構成され、6千万点の蔵書を誇るという。運営は市の出資と民間の寄付による独立法人であるが、市民には無料で開放されている。
映画の冒頭で図書館職員たちが市民からの電話に対応するシーンがあるが、彼らの応対ぶりから日々無数の問い合わせがあり、その内容も多岐にわたることがわかる。市民にとって図書館は生活を豊かにするのに必要不可欠な場といえる。
また冒頭で「午後の本」というトークショーが描かれるが、トーク企画は市民から好評のようで、幾つかの講演をカメラは追っている。その一方、「舞台芸術図書館」のピアノコンサートやパフォーマンスなども描かれ、多様な活動が紹介されていて興味深い。
面白いのは、ブロンクス分館で開かれた就職説明会のシーンだ。消防署や医療センターなどの職員が市民の就職を支援する。また運営幹部の会議ではIT弱者の市民や子供たちの教育をどう支えるかが話し合われる。市民は一様でない。経済や教養などの格差にどう対応するのか悩みが尽きない実情が伝わってくる。
映像は説明抜きのいつものワイズマン・スタイル。今回は多くの分館が市内に分散するため、外景シーンに道路標識が目立っているが、長尺ながら飽きさせない映像の冴(さ)えは監督の真骨頂。そんな映像の流れから浮き彫りにされるのは、図書館はまさに社会の現在と未来の象徴ということだ。3時間25分。
★★★★★
(映画評論家 村山匡一郎)
[日本経済新聞夕刊2019年5月17日付]
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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