ちらし・串・塩辛… 香ばしさ広がる、島根のサバ食

お食事処おくいの「焼さばずし」はちらしずし風で、木製のおけに入れて出す
お食事処おくいの「焼さばずし」はちらしずし風で、木製のおけに入れて出す

島根県には独特のサバ食文化が根づいている。中国山地にほど近い中山間地の雲南市には郷土料理として、サバをまるごと串に刺して炭火で焼き上げた「焼さば」がある。すしのネタとしても使われ、観光客や地元住民の人気を集める。松江市などではサバを使った塩辛やカマボコが開発され、食卓向けの新たな特産品に育っている。

雲南市にあるJR木次線の木次駅から徒歩数分の料理店、お食事処おくいの「焼さばずし」はちらしずし風で、具だくさん。3人分以上を木製のおけに入れて出す。錦糸卵に覆われたすしの中にしゃもじを入れれば、サバのほぐし身、シイタケ、木の芽、タケノコなどが現れる。こんがりと焼いたサバの身は香ばしく、くせがない。

雲南市ではかつて農繁期の間食として、数人で食べられるちらしずし風の料理が作られていた。それを地域振興に生かそうと、約30年前に木次地区の10軒がメニューに取り入れた。ところが焼さばをほぐす手間が掛かることなどが敬遠され、今もこうした形で提供するのはおくいだけだ。店主の奥井健功さん(75)は「昔ながらの家庭の味を楽しんでほしい」と話す。

同じ木次地区にある鮮魚店、石田魚店は、焼さばのほぐし身を使った太巻きずし、焼さばの身を上に載せた棒ずしが名物だ。太巻きずしには卵焼きやショウガ、キュウリが入る。いずれもショウガの風味がきき、ホクホクしている。4代目の石田秀樹さん(56)は「すしの種類によって産地が異なるサバを使う」というこだわりを見せる。同市の店では珍しく、店頭以外にネット販売もしている。

串刺しのサバを店頭で焼き上げて販売している藤原鮮魚店(島根県雲南市)。商品は特注の木製「サバショーケース」に並ぶ

串刺しのサバを店頭で焼き上げて販売している店もある。雲南市三刀屋地区の藤原鮮魚店だ。特注の木製「サバショーケース」にはノルウェー産、青森・八戸産などさまざまな焼さばが並ぶ。強火の近火で焦げるまで焼いたサバは、表面はカリッとしているが、身はふっくらとしており、ジューシーだ。

土産品として手軽に味わえる加工品もある。松江市の松田十郎商店は、かつて同市美保関町の漁師の家々で作られていたサバの塩辛を製造・販売している。ぶつ切りにしたサバと塩だけを使った第1弾商品は、その強烈なしょっぱさが好事家の心をとらえ、週刊誌にも取り上げられて話題になった。今年、オリーブオイルに漬け、味をまろやかにした新商品も追加した。

松江市の寿隆蒲鉾は山陰沖で取れるサバとアラスカ産高級スケソウダラが原料の「しめ鯖かまぼこ」を市内の土産物品店やネットで販売している。臭みがなく、つるんとした食感。酒のつまみに合う。

<マメ知識>消費量、松江市が最多
島根県民はサバ好きだ。総務省統計局の家計調査で、1世帯当たりのサバの年間消費量(2016~18年の平均)は都道府県庁所在地など全国52市で松江市が最多。全国平均の1.7倍の約1.6キロに上る。そうした中、海から離れた雲南市木次・三刀屋地区で焼さばが生まれた背景には、かつての流通事情がある。両地区には広島と島根県東部を結ぶ街道が走り、交通の要衝だった。しかし日本海沖で取れた生サバを味わうのは、この辺が限界だった。そのため保存しやすい焼さばにし、奥地に運んで行った。

(松江支局長 西村正巳)

[日本経済新聞夕刊2019年5月16日付]