ドイツの有機板チョコ1枚700円 環境・人権に配慮
独南部ニュルンベルクで開かれた世界最大級の有機食品見本市「ビオファッハ」。チョコレート業者のブースをのぞくと、そこに営業に来ていた女性に「試食してみますか?」と話しかけられた。一片のダークチョコレートをほおばると、ほのかにベリーやライチ、かんきつ系の味が口の中で混ざり合う。ブースの業者は「とても深い味だ」と驚いていた。
聞くと、女性はフランクフルトのチョコレート会社、ペルプロ社長のフラウケ・フィッシャーさん。共同経営するアルノ・ビールゴスさんと市場調査などのために見本市に訪れたという。
ペルプロの板チョコ1枚の価格は5.5ユーロ(約700円)。一般的なスーパーで売られている板チョコは1~1.5ユーロだから安くはない。「私たちの商品にはオーガニック認証のシールが貼られているが、認証の基準よりもかなり多くのことをしている」とフィッシャーさんは話す。
まず豆が違う。ぺルーのウルバンバ渓谷の熱帯雨林の生産者から直接買い付けている「チュンチョ」という品種。全てのカカオ豆の源流になったと考えられている珍しい品種だ。
生産者には通常の2倍代金を支払っている。世界のカカオ豆相場に加え、児童労働などの低賃金搾取がないフェアトレード、有機栽培によるコスト、さらに本来なら生産者が負担する物流費もペルプロが負担する。
実はビールゴスさんは2012年からカカオ農家に熱帯雨林を保護できるような作業法を教えるなど、環境保護の仕事をしていた。だがフェアで購入したい買い手が現れず、15年に大学で熱帯生物を研究していたフィッシャーさんと会社を立ち上げた。
資金集めはクラウドファンディングで実施。わずか10日間で必要な2万5千ユーロに達した。生産を委託しているスイスのメーカーは「1枚12ユーロでも高くない品質」と話しているという。
ドイツではいま有機食品の市場が活況だ。独調査会社のスタティスタによると18年の市場規模は109億ユーロと00年の5倍以上になった。商機とみたスーパーなど大手資本による参入も相次ぐ。
一方で有機食品の認定を得るためにはフェアトレードは必要条件ではなく、生産者への不当な扱いが問題になるケースも出ている。ペルプロのチョコレートはこうしたトレンドに対するアンチテーゼでもある。
(フランクフルト=キラ・イエガー、深尾幸生)
[日経MJ 2019年5月13日付]
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