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セールス禁止で業績を回復 これが地域金融の生きる道 神戸大学教授 家森信善

2019/5/11付 日本経済新聞 朝刊

地域の金融機関には顧客とともに悩み、伴走する銀行員が求められる=イラスト・よしおか じゅんいち

昨年9月に金融庁は、2018年3月期で本業が赤字となっている地域銀行が全106行の半数を超える54行であり、5期連続の本業赤字が23行にも達していると公表した。こうした業績の低迷は構造的なものであり、地銀を含めた地域金融機関の先行きに悲観論が広がっている。

その顕著な現れが、若手・中堅職員の退職が増え、新卒市場での採用に苦戦する地域金融機関が増えてきていることである。地銀は地域の優秀な人材をいくらでも採用できるが、その人材を活用できていないと批判されてきた。だがそれは過去のことになりつつある。

地域金融機関には地方創生の担い手として大きな期待が集まっているが、このままでは地域金融機関は人材面からその役割を果たせなくなってしまう心配がある。

■人材確保が急務

「捨て銀」シリーズの最新刊、橋本卓典『捨てられる銀行3 未来の金融』(講談社現代新書・19年)は、銀行員の大量解雇が起こっているのは、「誰でもできる仕事をさせてきた銀行のビジネスモデルが行き詰まったため」だとし、多くの銀行が目先の利益のために「使命を捨て、顧客資産の収奪の上に、自らの収益を打ち立てた」と現状を厳しく批判している。

しかし、著者は決して地域金融機関が不要だと主張しているわけではないと理解したい。実際、同書では、顧客に害を与える黒魔術の使い手の銀行だけではなく、顧客に寄り添って、見えない将来を一緒に切り開いていこうとしている金融機関の職員が何人も取り上げられている。ただし、今のような経営をしていては、そうした人材は減っていく一方だという危機感があるのだ。

閉塞感の強い地域金融の中で異色を放つのが、第一勧業信用組合である。新田信行『よみがえる金融―協同組織金融機関の未来』(ダイヤモンド社・17年)は、経営難だった同信組を「第二創業」し、「捨てられない」金融機関に変身させていく信組理事長自身の奮闘とそのバックにある哲学を明確に描いている。

新田氏のように「セールスは一切禁止」で、「人を見て、事業を見て、与信判断を行う」ことは多くの金融機関経営者も唱えているが、それをどこまで徹底できるか。そして、精神論だけでなく、そうしたことに職員が本気で取り組める裏付けとしての、組織改革、人事評価改革、事業性評価ツールの開発などに踏み込めているかがカギとなりそうである。

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