しびれるマー、一日はこれで始まる 中国の重慶小麺
中国・重慶市中心部のオフィス街、両路口の路地にある胖妹(パンメイ)麺荘。朝7時に開店すると、真っ赤なスープにコシのある細い麺が入った重慶小麺が飛ぶように売れる。麻(マー)と呼ぶしびれる辛さを引き起こす花椒とトウガラシ、コンブなどのうまみを利かせたスープが人気の秘密だ。不動産会社に勤める何●(くさかんむりに止)琳さん(21)は「この麺を食べないと一日が始まらない」と打ち明ける。
日本で四川料理の麺類といえば担々麺だが、実は、中国では重慶小麺の方が有名だ。南宋時代のモンゴル来襲時に、現在の重慶市北西部の合川地方で城を守っていた兵士が体を温めるために食べた辛い麺が起源とされる。
その後、歴史的に商人や役人が多かった成都では上品で小ぶりなサイズの担々麺が生まれた。一方、長江沿いの物流業や製造業が盛んで労働者が多い重慶では、ボリューム感と豊富なトッピングが特徴の重慶小麺が誕生した。胖妹麺荘もランチ時は牛肉とモツの両方がのった「混合麺」が1番人気で、1日に1千杯以上を売りさばく。
「近くの学校の男子高校生の腹を満たすために、別々に提供していた麺と(四川風ワンタンの)抄手(チャオショウ)を一緒に出すようにした」。一杯で満足感を得たいならば、市内の住宅街、江北区五里店にある聚園麺館が断トツだ。麺と抄手の両方が入っているため、近隣に住む住民らが押しかける。
同店を30年前に創業した郭昌福さん(71)は、もちろん味にもとことんこだわる。豚骨ベースのスープに肉味噌とゆでたキャベツを加えた抄手雑醤麺が人気メニューだ。さらに甘辛く煮た鶏のモモをトッピングすることもできる。最近は近隣の人気ショッピングセンター「新光天地」に2号店を出した。
一方、女性の支持が厚いのが市中心部の観光地、解放碑にある花市豌雑麺だ。熱々の麺に花椒とトウガラシが効いた肉味噌と、とろりと煮たえんどう豆をかけた混ぜ麺「豌雑麺」が看板メニュー。「えんどう豆の甘さが癖になるし、栄養バランスもいい」と流通業で働く黄美香さん(27)は太鼓判を押す。
重慶に重慶小麺を提供する店舗は8万4千軒あり、中国全土では40万軒を超えるとされる。胖妹麺荘の創業者、高維さん(40)は「フランチャイズ方式で全国展開しており、加盟店は3千店舗を超え、どんどん増えている」と胸を張る。辛い火鍋などの人気が高まる日本でブームを引き起こす日は近いかもしれない。
中国最大の旅行シーズンである10月の国慶節休暇で、重慶は2018年に北京に次ぐ中国2位の人気観光地となった。中国や日本などで人気の動画投稿アプリ「ティックトック」で、重慶の伝統的な建築様式を再現した商業施設「洪崖洞」の幻想的な風景を撮影した動画が注目されたためだ。
洪崖洞はアニメ映画「千と千尋の神隠し」に登場する湯屋に似ているとされ、ファンが詰めかける。長江などによる起伏に富んだ独特な街並みは多くの映画のロケ地にもなり、国内外の観光客を魅了する。
(重慶支局長 多部田俊輔)
[日本経済新聞夕刊2019年5月9日付]
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