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伊坂幸太郎や朝井リョウ… 競作小説で多彩な作風堪能

2019/5/7付 日本経済新聞 夕刊

アンソロジーや競作は知らない作家と出合う楽しみがある

作家の競作が相次いでいる。複数作家の短編を収めたアンソロジーや、共通テーマに基づくシリーズ小説が刊行され、人気を集めている。各作家の多彩な作風を一度に味わえるのが特徴だ。

旧暦の季節を表す言葉に「冬至」「小寒」など一年を24等分した二十四節気がある。それをさらに3等分したのが七十二候。4月下旬刊行の「掌篇(しょうへん)歳時記 春夏」(講談社)は、作家12人が七十二候に導かれて書いた掌編を収める。文芸誌「群像」に載った作品をまとめた。

シカの角が落ちる12月27日から31日ごろを指す「麋角解(さわしかのつのおつる)」を題材にしたのが瀬戸内寂聴。イラストレーターの女性が塗物師と新生活を始める年の暮れをつづる。1月に亡くなった橋本治は「牡丹華(ぼたんはなさく)」(5月1日から5日ごろ)の章で、女子中学生がタトゥーを彫る様子を描いた。

■豪華な面々ずらり

「題材が広がりやすいこともあり、多様な作品が並んだ。ある作家は『豪華な面々の中に入れてもらえた』と喜んでいた」と単行本化を担当した加藤玲衣亜氏は話す。詩人の白井明大による七十二候の解説も載せ、季節感が伝わりやすくした。秋には「秋冬」編を刊行する。

2016年、文芸誌「小説BOC」(中央公論新社)の創刊に合わせて始まった競作企画「螺旋(らせん)プロジェクト」。「海族」「山族」の対立を描くという共通設定に基づき、8組9人の作家が時代の異なる小説を連載した。今年から単行本化が始まり、朝井リョウ「死にがいを求めて生きているの」、伊坂幸太郎「スピンモンスター」が刊行された。近く天野純希「もののふの国」、薬丸岳「蒼色(そうしょく)の大地」が出る。

大崎梢、近藤史恵、福田和代、松尾由美、松村比呂美、矢崎存美という女性作家6人は「アミの会(仮)」を結成し、15年から競作短編集を刊行中。最新刊は第6弾の「アンソロジー 嘘と約束」(光文社)だ。

■若手が書ける場に

14年刊行の「決戦!関ヶ原」で始まった講談社「決戦!」シリーズは、歴史上重要な戦を各作家が独自の視点で描く。執筆者は入れ替わりながら、毎回7人が参加した。18年の第8弾「決戦!設楽原」で一区切りしたが、単行本・文庫の累計部数は27万部にのぼる。

「小説誌が減った結果、若手を中心に短編を書く機会が減っている。代わりとなる場を設けたかった」と編集者の戸井武史氏。近く同様のアンソロジー「戦国の教科書」を刊行し、シリーズ化を目指す。

アンソロジーやシリーズ本には様々な個性が詰まっている。好きな作家をきっかけに新たな作家と出合えるのも魅力といえる。

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伊坂幸太郎氏に聞く

■他の作品、気になる/「一番変」を目指した

9人が競作した「螺旋プロジェクト」に参加し「掌篇歳時記」でも「鶏始乳(にわとりはじめてとやにつく)」(鶏が卵を産み始める1月30日から2月3日ごろ)の章を担当した伊坂幸太郎に、作品に関して聞いた。

「『螺旋プロジェクト』はそれぞれがヨーイドンで連載を始め、同時に進めていくもので、良い思い出になった。一緒に連載している方の作品はやはり気になり、編集者を通じて感想を伝えていた」

中編2作を収める「シーソーモンスター」の表題作は昭和後期、嫁姑(よめしゅうとめ)のいがみ合いに悩む製薬会社のサラリーマンを主人公とする。女性2人には実は共通点があったという意外性が伊坂の作品らしい。「『対立を描いたら』と提案したのは僕だが、その共通ルールに苦しんだ方もいたようだ。僕は嫁姑問題でも書けばいいでしょ、くらいの軽い気持ちだった」

もう一編「スピンモンスター」は近未来を舞台にしたアクションもの。天才科学者が残した手紙をもとに2人の男が世界の危機を救うため、見えない敵と戦う。「近未来のことを予測しようとするとたいがい外れてしまう。アナログに戻った方がいいのではないかと考えて(主人公の)書類の配達人を思いついた」

「鶏始乳」は吹雪の中を歩く夫婦と鶏を運ぶ家族の話で構成し、幻想性にあふれる。「執筆陣の多くは純文学系なので、エンターテインメントの自分は異質だったかも。一番変なものにしたいと好き勝手書かせてもらった」

(編集委員 中野稔)

[日本経済新聞夕刊2019年5月7日付]

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