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池上彰の大岡山通信

令和を生きる新入生に 「自ら問い立て、答え探して」 池上彰の大岡山通信 若者たちへ

2019/5/6付 日本経済新聞 朝刊

池上さんは「人生には答えのない難題にも出くわすことがある」と話した

新入生諸君、入学おめでとう。夢や不安を抱きながら「令和」という新たな時代に踏み出していくのですね。先日、東京工業大学の新入生に、「良き問いを立てるために」というテーマで話をしました。今回と次回は学ぶことの意味について一緒に考えてみましょう。

高校までは「生徒」、大学では「学生」と呼ばれるのはなぜか。それは、高校までは文部科学省の学習指導要領があり、基礎的な学力を育む目標がありましたが、大学にはそうした指針はありません。専攻分野で自ら問いを立て、その答えを探していかねばならないのです。

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学ぶテーマはキャンパスの中だけではありません。世界や人々の動きを伝えるニュースにも関心を持ってほしいと思います。4月、新元号「令和」を巡る報道で面白いエピソードがありました。

それは英BBCが新元号「令和」のニュースを伝える際、「令」を命令、秩序という意味の「order」と訳したのです。「令」には美しいという意味もあります。日本文化への理解が十分ではなかったようです。

安倍晋三首相は談話で、令和について「人々が美しく心を寄せあうなかで文化が生まれ育つという意味が込められている」と語りました。新しい時代への希望を託そうという思いを感じました。

そこで思い出したことがあります。日本には言霊(ことだま)信仰があることです。言葉には不思議な力が宿っていて、古くから人々は折に触れて、航海の安全や豊作などを願う気持ちを言葉に託してきたのです。

とりわけ平成という時代には地震や水害などの自然災害が多く、こうした苦難のない時代にしたいという思いを託すのも十分理解できます。

ただ、歓迎されないケースもあります。「うまくいかなかったら」といった事態を話題にしてしまうと、「不吉なことを言うな」と一蹴されるのではないでしょうか。日本人は縁起を大事にする気持ちがあるのです。

これに対して米国では、計画の失敗や予期せぬ状況変化に備え、「プランB」という現実的な選択肢を用意するのだそうです。あなたが将来、学校や企業などで参考になるエピソードかもしれません。

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では、諸君は何のために大学で学ぶのでしょう。私なりに解釈すれば、学びは人々の「豊かな暮らし」に役立つからだと考えています。単に個人の興味や関心を満足させるためだけではありません。

教授の講義も最先端の研究も、まずは疑ってほしいのです。講義室では批判精神を持ち、教授や仲間と繰り返し議論をしてください。だからこそ、大学では「自ら問いを立て、答えを探し求める」ことが大事なのです。

これからあなたが漕(こ)ぎ出す長い人生では、明確な正解を見つけられない難題に出くわすこともあるでしょう。あなたが大学生活で自ら問いを立て、答えを求めて学ぶことは、予期せぬ人生の岐路に立ったときに答えを導き出す力になってくれるはずです。

視野を広げ、見聞を広げるためにも、せめて読書には時間を割いてください。大学4年間で目標100冊といったところでしょうか。日々の生活で、時にはスマートフォンから目を離し、落ち着いて考える時間を習慣にするといいでしょう。

[日本経済新聞朝刊2019年5月6日付]

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