古美術商から研究者へ 恩師に背中押され海外で30年兵庫県立美術館館長 蓑豊氏

箕豊氏と座右の書・愛読書
箕豊氏と座右の書・愛読書
2004年から金沢21世紀美術館で初代館長を務め、年間150万人超が訪れる名物美術館に育て上げた。古都・金沢では現代アートの普及に努めたが、もともとの専門は中国陶磁だ。
みの・ゆたか 1941年金沢市生まれ。慶応大卒、ハーバード大博士号取得。モントリオール美術館、シカゴ美術館などで東洋部長を歴任。2010年から現職

父は東京・銀座で茶道具を扱う「博山堂」という店を構え、益田鈍翁、藤原銀次郎といった昭和の大茶人にかわいがられた目利きでした。自転車やオモチャは買ってくれないが、本であれば何でも買ってくれた。古本屋になりたいと思うほどの本好きになったのは父の影響でしょう。

慶応義塾大学では水墨画をやりましたが、陶磁研究者で陶芸家の小山冨士夫先生と出会って研究の対象が変わった。大学3年の時、小山先生に頼み込んでエジプト調査に連れて行ってもらったのです。山積みになった何万個もの陶器の破片から中国のものだけを拾い出すのが仕事。破片が頭上に崩れ落ちてくるし、鼻の穴はホコリで真っ黒。ひたすら陶器の破片を見続けたのはいい勉強になりました。

小山先生の『中国・台湾 やきものの旅』は現地の古窯や博物館を訪ね歩いた随筆で、行動派の研究者だった先生らしい本です。なにしろ一橋大学時代に共産主義に感化され、学校を中退して北海道から蟹(かに)工船に乗った人です。研究に目覚めてからは陶磁器を求めて中国から朝鮮半島、東南アジア、イラクやイラン、欧州まで旅をされた。大学を出て古美術商に勤めていた私を「カナダのトロントにあるロイヤル・オンタリオ博物館に膨大な中国陶器があるから、全部調べてこい」と送り出してくれました。1968年のことです。横浜港を出港すると船上に先生から電報が届きました。「学者になるまでは帰るな」。数年の遊学のつもりだったので「大変なことになったな」と思いましたが、これが30年近い海外生活の始まりとなりました。

カナダ、米国では博物館や大学の図書館の充実ぶりに目を見張る。

トロントでは夜中3時ころまで図書館に入り浸り、守衛さんと仲良くなりました。ここでまとめた中国陶器の分類に関する論文が認められ、ハーバード大学に入学します。ここの図書館も宋の時代からの本がずらりとそろう宝の山。当時はカギを持たされ、24時間図書館に入れました。あこがれの中国文化史の第一級の研究者、シェーファー先生の名著『サマルカンドの金の桃』や指導教官で青銅器の研究者、ロアー先生の著作に親しみました。

ハーバード時代に手にいれた宝物が岡倉天心の『東洋の理想』です。出入りしていたケンブリッジの古本屋で見つけた初版本。天心がハーバード大の大学美術館長に贈呈したもので、1904年12月23日の日付と署名があります。売値は27ドル。天心はこの本で、アジア諸国の芸術文化を横断的に語っています。当時の私は天心のように視野の広い人間になりたいと願っていたので、1週間分の食費と引き換えにあこがれの本を手にしました。

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