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画像はイメージ=PIXTA

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利益を追求する企業と、社会が抱える課題の解決を目指すNPO。組織論のレンズを通して見ると、両者の距離は縮まっていると指摘する著作が学界に一石を投じている。

企業組織論の専門家、ヘンリー・ハンズマン著『企業所有論』(米山高生訳、慶応義塾大学出版会、2019年3月)は、企業を所有するのは誰かという観点から様々なタイプの企業の特徴を示す。企業はなぜ存在するのか。個人と個人の契約関係を柱に据える経済学の根幹に関わる難問だったが、「取引のコスト」や「情報のコスト」を節約するために企業は生まれたとの仮説が登場すると経済学は盤石になった。この流れをくむ著者は、株式会社、協同組合、公益事業、非営利企業といった企業や組織が誕生した背景を経済理論を使って解明する。

同じ尺度で比べると、多くの企業や組織の中で最も有力で多くの長所を持つ株式会社の限界も明らかになると著者は分析する。株主が多い大企業では株主が経営者をコントロールできず、経営者は自分たちの間で選任され、株主への説明責任を果たす必要がない。株主の力は弱くなり、所有者がいない非営利企業との相違は小さくなる傾向にあるという。

永合位行・鈴木純著『現代社会と経済倫理』(有斐閣、18年7月)は「経済倫理」の視点から、企業、政府やNPOには何が求められるのかを論じる。「市場で行動する主体がなんらの倫理性も持ちあわせていないとすれば、市場が優れた機能を発揮することなど考えられない」と企業をけん制する一方、NPOにも「倫理的行動を保証するわけではなく、利益の分配制限が消費者や寄付者からの信頼に直接に結びつくと考えるのは、少々楽観的すぎる」と注文を付ける。

京都大学経済研究所が開いたシンポジウムの内容をまとめた『資本主義と倫理』(東洋経済新報社、19年3月)に収録された講演録によると、経済学者の岩井克人氏は「会社の経済活動には経営者が欠かせず、経営者の行動は倫理性が前提になっている。経済学は倫理を葬り去ることによって成立した学問であったはずだが、倫理が再び掘り起こされる」と強調した。経済学は、資本主義社会に欠かせない存在の倫理と向き合えるだろうか。

(編集委員 前田裕之)

[日本経済新聞2019年4月27日付]

企業所有論:組織の所有アプローチ

著者 : ヘンリー・ハンズマン, Henry Hansmann
出版 : 慶應義塾大学出版会
価格 : 6,480円 (税込み)

現代社会と経済倫理

著者 : 永合 位行, 鈴木 純
出版 : 有斐閣
価格 : 2,376円 (税込み)

資本主義と倫理: 分断社会をこえて

著者 : 岩井 克人, 生源寺 眞一, 溝端 佐登史, 内田 由紀子, 小嶋 大造
出版 : 東洋経済新報社
価格 : 1,620円 (税込み)

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