映画『バースデー・ワンダーランド』 異界の冒険

原恵一監督のアニメの根底にはファンタジーがある。異界での冒険物語だ。

東京・有楽町のTOHOシネマズ日比谷ほかで公開(C)柏葉幸子・講談社/2019「バースデー・ワンダーランド」製作委員会

北斎の娘・お栄を主人公にした『百日紅』でも、江戸時代の日本を、物の怪(もののけ)と八百万(やおよろず)の神が住まう異境に変え、そこに生きる娘の冒険を描きだしてみせた。

この最新作『バースデー・ワンダーランド』では、真正面から純粋なファンタジーの世界に挑んでいる。

ヒロインは小学生のアカネ(声・松岡茉優)。骨董屋を営む奔放な叔母チィ(声・杏)の店を訪れたとき、いきなり地下室の揚げ戸が開き、そこから大錬金術師のヒポクラテス(声・市村正親)が現れる。

地下室の彼方(かなた)に広がる異界のワンダーランドでは、水が不足し、そのため世界から色が失われようとしていた。ヒポクラテスはアカネにこの危機の原因を究明し、ワンダーランドを救ってほしいと頼みこむ。

アカネは叔母のチィに励まされ、ワンダーランドへの旅に出る。そして、様々な苦難を乗りこえ、水源を破壊しようと企(たくら)む悪党ザン・グと対決することになる。だが、その策謀の裏にはワンダーランドの意外な秘密が隠されていた……。

原作のせいか、題材は常套(じょうとう)的で既視感があるし、脚本ももっと作劇術にメリハリをきかせることができたはずだ。しかし、狙いはしごく真っ当(まっとう)なイニシエーション(通過儀礼)の物語である。冒険の成就とヒロインの自己確立が重ねあわされているのだ。

ワンダーランドを潜りぬけた少女が自分を確立したといえるためには、その世界の苛酷(かこく)さと美しさが説得的に示されなければならない。そのため原恵一は、自然の力を幻想的なまでに徹底して描きこむ意欲を見せている。嵐が吹きすさぶ虹色の砂漠や、光線がきらきらと屈折する水底の風景、雪に閉じこめられ暗鬱にかすむ町など、異界の自然の諸相が見どころといえよう。1時間55分。

★★★

(映画評論家 中条省平)

[日本経済新聞夕刊2019年4月26日付]

★★★★★ 今年有数の傑作
★★★★☆ 見逃せない
★★★☆☆ 見応えあり
★★☆☆☆ それなりに楽しめる
★☆☆☆☆ 話題作だけど…
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